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2009.12.28 (Mon)

フランスで事実婚が多い理由、番長がお教えするぜ

 まいったね。
 「フランス婚」への誤解には、まいったね。

 以前に書いた、夏木マリ姐さん言うところの「フランス婚」を思い出してもらおうか。


 敢えて入籍はしないが、今後2人で同居する予定で、夏木は「プロポーズや結婚指輪はまだないです。フランス人は籍を入れないみたいだし、“フランス婚”ということにしていただけないかしら。
産経ニュースより)



 姐さんが言うフランス婚とは、籍を入れない同棲状態のことだ。
 なんとなれば、フランス人は籍を入れないからだ、と。


 待てーい!!


 なんか忘れてやしないかい。
 フランスって国は、国民の7割をカトリック教徒が占める、大カトリック教国なんだぜ。

 アンタ、ノートルダム大聖堂って名前くらいは、聞いたことあんだろ。
 パリのが有名だが、実は各地にある。


パリのノートルダム大聖堂
(パリのノートルダム大聖堂)



リヨンのノートルダム大聖堂
(リヨンのノートルダム大聖堂)


 ノートルダムってのは直訳すると、「我らの夫人」とか「みんなのおふくろさん」くらいの意味なんだな。
 英語にすれば、まあ our lady ってとこよ。

 これ、誰のことを指してるか、わかるかい?
 聖母マリアさんよ。イエス・キリストを生んだことでおなじみの、あの御仁な。
 フランス人にとってどれだけ身近な存在なのか、よく表してるだろ。


 南仏のアヴィニヨンにはかつて、カトリック世界の中心、教皇庁だって置かれてたんだぜ。


アヴィニョン教皇庁
(アヴィニョン教皇庁)



 でもって、カトリック教会において、結婚と言うのは神聖にして超重要な儀式の一つ。生まれた時の洗礼、死んだ時の葬儀に並ぶ、人生の節目となる一大イベントなのよ。


s-raphael.jpg
(ラファエル「マリアとヨセフの結婚式」



 いやいや、そちらさんのおっしゃるとおり、最近の若者は礼拝なんかにも行きゃあしねえよ。
 ただ、日本で仏教が葬式、神道が初詣や七五三なんかの儀式の中に根付いているように、フランスでもキリスト教の影響はちょっとやそっとのことで抜けやしねえ。
 フランスには1年に12日の祝日があるんだが、そのうち7日がカトリック絡みのイベントだってのを見てもわかるだろ。
 結婚はいまだに特別な儀式なのよ。

 そもそも日本でいま一般に行われてる結婚式、ありゃ大半がキリスト教のマネゴトじゃねえか。
 結婚情報誌「ゼクシィ」の調査によると、日本の結婚式の64%はキリスト教式と圧倒的。神前式18%、人前式が16%なんだとよ。
 フランスでやってるような結婚式がカッコイイ、ステキってんで取り入れてきたものを、いまさらフランス婚と言えば同棲のことです、ってそうは問屋がおろさねえよ。


 ただな。
 一方で、姐さんのおっしゃるとおり、フランスに籍を入れないカップルが相当多くいるのも事実だから、一筋縄じゃいかねえよな。

 データとしちゃ、こんなのがある。フランスで2008年に生まれた子どものうち、なんと52%、半分以上が婚外子なんだとよ。
 一応説明しておくと、婚外子ってのは、結婚してないカップルから生まれた子どものことだ。
 (ちなみに日本では2%しかいねえ。むしろ2%もいたのかって感じすらあるわな。)


 ハイ出たよ矛盾。フランスに付き物の矛盾。
 元祖・結婚式の国、のはずのフランスで、なんだってこんなに事実婚が多いのか?
 番長がズバリお答えしよう。


 結婚と離婚が面倒くさいからよ。
 そりゃもう壮絶に、悶絶するほどに。


 日本の結婚はごく簡単だ。
 結婚届に名前を書いて、証人2人のハンコもらえばしまいよ。
 本籍地以外で届け出るなら戸籍謄本が必要だが、日本の役所は優秀だ。取り寄せれば1週間と待たずに郵送されてくる。

 さてフランスの結婚。申請に必要な書類は、

 出生証明書、

 慣習証明書、

 独身証明書、

 婚前診断書(=健康診断書)、

 居住証明書。

 ここらへんがとりあえずの基本セットだ。
 とりあえずと留保したのにはワケがある。必要書類が自治体によって違うのよ。これ以外にも必要とされる書類がある、場合もある。
 結婚を決めたらまずは役所に行って、「結婚申請に必要な書類のリスト」という書類をもらうところから始めるそうだぜ。

 しかも、フランスの役所ってのは本当にクソッタレだから、こういう書類を入手するのに、いちいち時間が掛かる。2、3ヵ月待たされるなんてのはザラよ。

 次に、結婚の公示ってのがある。役所の前に、こいつら結婚するけど異議はねえかと一定期間、書類を張り出すのよ。

 でもって、その次に役所の担当者によるインタビュー。これはあったりなかったりするようだが、どこで出会ったとか、いろいろ聞かれるわけだ。偽装結婚を防ぐためらしい。

 さらに加えて、役所で結婚式を必ずやらなきゃなんねえ。それぞれの役所の中に専用の部屋がちゃんとあるのよ。

 まずは市長のアポを取る。
 指定の時間に本人たちと証人が出向く。証人の数ってのがまたそれぞれ違って、2人だったり4人だったりするようだ。
 で、市長から直接意思を確認される。その上でようやく結婚が認められる。
 これは例外なしで、病人だったら市長が病院まで来るんだとか。
 フランス語を理解出来ないようだったら、法定通訳を立てなきゃなんねえ。

 その上で、教会での挙式がしたけりゃ勝手にどうぞ、ってことになる。このへんは日本でも同じだな。
 ヨーロッパでも、スウェーデンなど国によっては、教会で結婚式を挙げれば自動的に役所の手続きも終わるらしいが、フランスではそうはいかねえ。
 この教会の手続きがまた大変で、なんで結婚するのかといった聞き取り調査はやっぱりある。当日のミサも3~4時間に及ぶこともあるとか。

 で、たいていのフランス人は披露宴というか結婚パーティもやるから、つまりは3回のセレモニーをこなすことで、ようやく一連の儀式が終わるってことらしい。


 とまあ、結婚にはなんとも七面倒くさい手続きが必要になる。
 しかし、離婚はもっと、輪をかけて面倒くさい。

 そもそもフランスでは、なんと1975年に法律が改正されるまで、協議離婚が禁止されていた。
 結婚式で「病めるときも健やかなるときも……死が二人を分かつまで、愛し慈しみ貞節を守ることを誓います」って言うだろ?
 あれは伊達じゃないのよ。カトリックてのは家族制度に関しちゃ厳格で、離婚を認めてねえ。
 神の前で誓った約束を破るなんてのはもってのほかよ。

 その協議離婚ってのは何かっていうと、夫婦で話し合って同意すれば、それで結婚を解消できるというタイプの離婚。
 要するに、互いに相手のことが好きじゃなくなったから、性格が合わないから別れたいです、ってなヤツよ。
 ちなみにそれ以外の離婚ってのは、たとえばドメスティック・バイオレンスがひどいとか、不倫だとか、やむにやまれぬ理由がある場合の離婚とかだな。

 1975年って言えば、たかだか30年かそこいら前。まだ最近だよな。
 そんな最近まで認められないくらい、離婚ってのは重いタブーだったのよ。
 協議離婚が認められるや、年間4万件だった離婚の数が10万件に跳ね上がったそうだぜ。


 だが、話はそれだけじゃあ終わらねえ。
 知っての通り、日本の協議離婚は離婚届を出すだけだ。
 ところがフランスでは、1975年に協議離婚が認められてからも、離婚をするためには必ず裁判をしなけりゃならなかったのよ。

 裁判にはもちろん、たくさんの書類が必要だし、証人による証言も必要だ。カネもかかる。
 たとえば、別居が続いていることの証明をしなきゃならねえ。いざ離婚をしようと思い立っても、まずは書類で証明できるような「正しい別居状態」を作って数年は維持する必要があるわけよ。そのあと裁判になって、まあ1年くらいはかかるわな。計2年くらいは少なくとも見とかにゃならんらしい。
 しかも、野郎のセックスが弱いからだ、いいやアイツが家事をしねえからだ、なんていう中傷合戦に陥ることもしょっちゅうだと聞くぜ。こりゃ大変だわ。

 2007年からはようやく、両者の合意ができてる場合は公正証書を作れば離婚できるようになったらしい。
 裁判所に出頭して手続きをしなきゃイカンという点では変わりねえがな。


 てなわけで、フランスでの結婚と離婚がどんだけ面倒くせえものかは、わかってもらえたかな?
 それでいて、事実婚でも、税制上の優遇措置なんかは正式な結婚とほぼ変わらない。
 そりゃ籍を入れないカップルも増えるわけだわな。

 なんでこんなに面倒くさいのか。
 こいつは番長の推測だが、やっぱりキリスト教の影響力が強いからじゃねえかな。
 きっと神様的には、結婚も離婚も、そう簡単にしてもらっちゃ困るわけよ。それが家庭に対し、ひいては社会に対し、責任を持つということだからな。
 ことに男尊女卑がまかり通っていた時分には、不埒な男どもをそうやって縛ることが必要だったんだろう。

 ところが、フランスの、あるいはヨーロッパの近現代史ってのは、そういう教会の支配から脱する戦いの歴史でもある。
 1789年のフランス革命が、まさにそのシンボルだわな。

 逆説的な言い方になるが、同棲なり事実婚というスタイルは、キリスト教の影響力が強い国だからこそ広がったわけよ。


 さて、わが祖国のニッポンだが。
 こっちは結婚も離婚も基本ペーパー一枚、非常に簡単と来てる。
 わざわざ事実婚を選ぶ必要がないんだよな。

 婚外子だって増えねえわけよ。
 むしろ、できちゃった婚やらおめでた婚なんてのがあるだろ。
 長年付き合ってると入籍に踏み切るタイミングがねえ、いっそ子どもができていいきっかけになった、なんてな。
 それくらい籍を入れることが簡単だからなのよ。フランスではまあない発想だぜ。


 いや、まいったね。
 そういった背景を無視して制度の上っ面だけをなぞり、フランス婚なんてうそぶいてみる。
 いつもカッコイイはずの姐さん、どうもらしくねえんじゃねえか。
 ショコラだマカロンだっつってきーきー騒いでるおぼこ娘と次元は変わらねえ、なんて言われちまうぜ。




bancho200.gif


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テーマ : フランス ジャンル : 海外情報

09:53  |  俺節フランス  |  トラックバック(0)  |  コメント(10)  |  編集  |  上へ↑

*Comment

偶然このサイトを見つけて「フランス番長」という名に惹かれ・・のぞいてみました。面白いのでついつい長居しちゃいます。結婚以外にconcubinageやPACSという制度が存在する訳が少し分かったような気がします。
それに関してちょっと質問なんですけど、遺産の相続ってどうなってるんですか?婚外子やPACSだと相続出来ないんでしょうか?遺書をめぐって騒動なんてのも映画でよく見かけたりしますね。いつかそんなテーマの記事も書いてくれたら嬉しいです~~。またのぞきにきます。         もんぺ里恵
はじめまして |  2010.05.18(火) 16:05 |  URL |  【コメント編集】

■もんぺ理恵さん、押忍!

 実にイカしたお名前だねえ。さて相続の件だが、これは婚外子だろうとなんだろうと、子どもには100%相続の権利が認められてるぜ。昔は婚外子には50%の権利しか認められてなかったそうだが、現在のフランスにはそういう区分けはねえのよ。てなわけで、他の記事も覗いてやってくれよな。今後ともキャトル・シス・キャトル・ヌフ!
フランス番長 |  2010.05.18(火) 18:35 |  URL |  【コメント編集】

■フランス番長さま

そうなんですねー。勉強になりました~、ありがとうございます。今はそういう区分けはないってことは、やっぱ、デモとかストとかやってそうなったんでしょうか・・?(フランスといえばストのイメージ・・)でも、フランスは少子化対策は成功していますよね。子供は国が育ててくれてるって感じ。(教育費とか・・)
これからも楽しみにしてます~~ありがとうございました。
もんぺ里恵 |  2010.05.19(水) 13:18 |  URL |  【コメント編集】

■Re: フランス番長さま

 このサイトでもご紹介した五月革命もしくは五月事件ってのはあったわけだが、これは1969年のことだが、それに前後してフランスでは女性に関する諸権利があれよあれよと整備されてったって経緯があるんだな。で、五月事件ってのはまさしくデモ・ストの親玉みたいなもんだから、もんぺ里絵さんの理解は正しいと思うぜ!
フランス番長 |  2010.05.22(土) 08:52 |  URL |  【コメント編集】

■アンシャンテ!

番長さま、押忍!
数日前、偶然こちらのサイトを見つけました。
「お仏蘭西じゃねえ、実態は、『お腐乱す』やっちゅーねん!」
と、日々叫んでいる、在仏の私にとって、探し求めていたブログが存在したことに激しく感動しています!!ありがとうございます!

ところで、今年の3月に日本で、【緊急!世界サミット"たけしJAPAN2 2010】 という番組が放映されていたのですが、ご存知でしたか?
少子化がテーマのところで、フランスの事実婚が取り上げられていたんですが、そこでは一切、フランスでは結婚・離婚の手続きが大変なことが出てこなかったんです。
私は番組を見ながら、「根本的な問題を説明してないじゃん!!何これー!」って叫んでましたが。。。
あの放映内容では、「日本も結婚制度なんて古いのよー」なんて、フランスかぶれな考えの人が増えそうで怖いです。。。

これからも、真実の腐乱すの姿を伝えてください。

番長さんにずっとついていきます!!
ショコラ |  2010.06.18(金) 06:02 |  URL |  【コメント編集】

■Re: アンシャンテ!

 ショコラさん、押忍! ビヤーンブニュだぜ。こんな場末のサイトを評価して下さって、どうもありがとうよ。ところで、日本のテレビはまだまだフランス幻想にとりつかれちまってるようだな。ご指摘の世界の北野武が出ている番組は見ていないんだが、そうかい、やはり事実婚のいいとこだけを紹介してたかい。日本で取り上げられるときってのはたいていそんな感じだよな。ちなみに番長の聞いた話じゃ、勝間和代の出演してるあるテレビ番組で日本の室内は明るすぎる、夜間で800ルクスくらいあるが欧米では100~300ルクス程度しかない、なんて言ってたそうだが。以前に「フランスは暗いぜ」と題した回で書いた通り、明るさの感じ方が違うのよ! やれやれだぜ。
フランス番長 |  2010.06.20(日) 19:50 |  URL |  【コメント編集】

■質問

初めまして。ちょくちょくブログを拝見させていただいています。日本のメディアでは、比較的浅い紹介(お洒落!とかゆとりの生活!とか)に終わることの多いフランスの実情を知ることが出来て、ワクワクするブログだと思います!

一つ質問があるのですが、この記事の中で、
>事実婚でも、税制上の優遇措置なんかは正式な結婚とほぼ変わらない

とありますが、これは

1 制度が複雑なため、籍を入れないカップルが増える
2 事実婚のカップルに対しても諸権利を認める要求の増大
3 事実婚のカップルであっても諸制度の恩恵を受けることが可能になった

という流れで実現したと考えてよいのでしょうか?それともこの流れとは関係のないところで事実婚カップルの権利が確立したので、それに便乗する若者が増えたということでしょうか?
ルブランの孫 |  2010.09.12(日) 14:34 |  URL |  【コメント編集】

■Re: 質問

 ルブランの孫さん、押忍! ウェブ上に置いておくとこうやって読んで下さる方もいるんだからありがてえよな。さて、ご質問の件だが。申し訳ねえ、正確なところは番長にはちょっとわからねえのよ。はっきりしてるのはPACSの方。これはもともと同性愛者にも民法上の結婚とかわらない権利を認めるために生まれたものだが、煩雑な結婚手続きを嫌う異性愛者の間でも浸透したという経緯がある。手続きが面倒なんで生まれた制度というわけじゃない。この文脈からすると、「事実婚に対する権利が認められたんで事実婚が増えた」というよりは、「もともと事実婚があったところに権利が認められた」と考える方が自然だろうねえ。うーん、答えになってなくてごめんよ。
フランス番長 |  2010.09.13(月) 12:24 |  URL |  【コメント編集】

お返事どうもありがとうございます。
番長のおっしゃる、同性婚カップル向けに作られたシステムを流用する事実婚カップルが増えた、という事実から判断すると、やはり、事実婚の増加→権利の認定へ・・・という流れで解釈するのが自然なようですね。
どうもありがとうございました!
ルブランの孫 |  2010.09.17(金) 11:40 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2016.01.16(土) 11:51 |   |  【コメント編集】

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