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2010.07.30 (Fri)

ア・ビヤントー しばしの別れ! 番長、麻薬犬にひっかかるの巻

 まいったね。
 税関には、まいったね。


 場所は成田空港。番長、初体験をし・ちゃ・っ・た・ぜ。
 11時間あまりのフライト、まあ熟睡など望むべくもねえ。隣には若いカップルが座ってやがったんだが、離陸から着陸まで2回の食事すらほとんど手も付けずにひたすら眠りこくっていて、なるほど睡眠とは若さなんだな、と思ったもんだぜ。おっと、番長もピッチピチのハタチだがな。
 ま、何事もなく成田に着いたってわけだ。

 パリ発ってことで検疫の通過もあっという間。いいのかねえ、アフリカよりもよほど強固なフランス菌がびっちりこびりついてると思うぜ。ま、通してくれるってんなら通るけどよ。入国審査もものの数十秒で終わり、バゲージもロストすることなく出てきたんで、空港を出ようとしたところ。

 税関でストップがかかった。
 最初に対応してくれたのは女性職員だったんだが、後ろからスイッと男性職員が出てくるんだな。で、何やら色々と写真の入ったクリアファイルを繰り返し丁寧に見せられる。
 薬物や銃刀剣類、動物やら植物、ポルノなど持ち込み禁止物が載っているもので、「こういうものは持ち込んでませんかね」と。いや、さっきの姉ちゃんにも言っただろ。持ってねえよ。

 これは後から考えれば時間稼ぎだったんだな。
 気が付いたら、オマエどう見ても柔道5段だろって感じの、税関の制服着てなかったらソウル五輪のころの斉藤仁、的な外見の野郎も番長を取り囲んでてな。
 ん?と思っていると、ファイルを見せていた男性職員が言うんだ。実は私どもの犬がそちらのスーツケースに興味を示しました、と。
 ははあ、さっきからカワイイわんちゃんがいたなあ。ずいぶん番長になついて。
 って、麻薬探査犬だったのかよ。

 案内されるまま奥の事務所へ、ごろごろ荷物を引っ張って行ったぜ。
 小さな部屋には机が一つ。斉藤と私が向かい合い、かたわらにファイルの男。おい、これって警察署の取調室にそっくりじゃねえか。
 番長もたいがい旅行好きで、海外には何度も足を運んでるが、こういうのは初めてだぜ。

 スーツケース、および機内に持ち込んでいたバックパックをひっくり返して、と言ってもここは日本なので丁寧に一つずつ梱包を解いていくんだが、そういう作業がファイル男の手によって始まった。めぼしいものはないかってんでね。

 斉藤が書類に何やら書き込みながら聞く。


 「ええと、連絡先の電話番号、何かありますか」

 いや、帰国したばかりなんでまだ電話はねえよ。

 「ご実家とか勤務先とかで結構ですが」

 ああそうかい。

 「フランスには長く滞在されてたんですか」

 それほどでもねえよ。

 「お仕事ですか」

 よく見ろ、学ラン背負ってんだろ。

 「なるほど。ちなみに留学先は」

 パリキャト大、応援部員だよ。

 「失礼ですが、先ほどご実家の電話番号を確認されている時に、052、と書いてあるように拝見しましたが……」

 ああそうだ、その番号は中京地区だよ。
(斉藤、はしっこいヤツ。マツコ・デラックスみたいなカラダして)

 「私の叔母も多治見に住んでましてね」

 そうかい、そいつは良かったな。日本一暑い町じゃねえか。



 斉藤、ピントずれてるぞと思ったが、今ふり返ってみると、斉藤はこのとき荷物検査をする時間を稼ぐために、のろのろと関係ない話を織り込んでいたのかもしれねえな。
 ま、ないものはないよ。
 以前は、イエメンで刃を落としていない伝統の小刀「ジャンビーア」を、ウズベキスタンでよく切れる伝統のハサミなんかを、それぞれ買ってきたこともあった。ような気がする。ま、こりゃ見つかってたら銃刀法違反だったろうな。
 しかし今回、あらゆる観点で後ろ暗いモノはひとっつも持ってねえ。こっちも堂々としたもんだ。そして実際、なんも出ねえ。
 このちっこい部屋に押し込められてから、ゆうに30分は過ぎただろうか。
 ついにファイル男は、ひととおりスーツケースをチェックし終わっちまった。だんだん向こうの空気が変わってくる。



 「これ、なんですかね?」
 (真っ黒いバッグ、中にはガムテープでくるんだ紙包み)

 ああ、カメラだよ。

 「……」

 ……

 「再度の確認になりますが、(さっきのファイルを見せて)こういうものは所持されてませんか」

 ないってのよ。

 「犬のことですから、必ずというわけではないんです。何か食品類でにおいのあるものとか、心当たりはありませんか」

 ないねえ。(ていうか、犬が反応したからここまで引っ張られてるってことか。)

 「じゃあ心当たりはまったくないと」

 正直、洗濯物くらいだね。ワッハッハ、こいつは3日間分くらいあって、汗を吸ってるからクッセエけどな。

 「パリから帰国されたとのことですが、(パスポートを見ながら)」

 (ちぇ、ノってこねえな)おう。

 「フランス以外の国には行かれてませんか」

 いや、いろいろ行ったよ。

 「どんな国ですか」

 そうねえ、イギリス、スペイン、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ、オーストリア等々。

 「誰かに何かを渡された、なんてことはありませんでしたか」

 (なんだよそりゃ、逮捕された容疑者の言い訳かよ)いや、ないねえ。

 「あるいは、そういった国々で、治安のあまり良くないところに行ったとか」

 率直に言って、ヨーロッパでどこからどこまでが治安がいい悪いというのを明確にすることは難しいし、そりゃ行ったことがないとは言えねえと思うぜ。

 「そういったところで、ご自身は何もされていなくても、近づいたりとかね」

 ああ、そういうことか。オランダのことね。ハッキリそう言ってくれよ。

 「アムステルダムなんて有名ですからね」

 なるほど。でも本当に行ってねえよ。番長、コカインよりもコカコーラ・ゼロの方が好きなんでな。

 「はっは、そうですかそうですか。なるほど。わかりました、もう結構です」




 そんなわけで、荷物をしまって東京へ出た。
 あー、無修正のエロ本とか入れてなくて良かったぜ。


 というわけで、いま番長は日本にいる。帰ってきちまった。
 久しぶりに吸うシャバの空気は、なんだかジメってやがるな。これが日本の湿気ってヤツか。それも今は心地良いぜ。

 言いたい放題いろいろ書いてきた番長だが、どうやらネタも尽きてきた。ここらが頃合いってことかもしれねえな。しばしの間、筆を置かせてもらうとするかい。

 読んでくれたアンタ、コメントをくれたアンタ、拍手してくれたアンタ、人気ランキングに投票してくれたアンタ、クチコミで広めてくれたアンタ、マイミクになってくれたアンタ、ツイッターでつぶやいてくれたアンタ、自分のサイトで取り上げてくれたアンタ。みんな、どうもありがとうよ。

 おっと、これでオシマイってわけじゃねえぜ。番長は不滅だ。気が向いたときに、またフラリとここへ戻ってくることもあらあな。そんときゃ一つ、キャトル・シス・キャトル・ヌフで頼むぜ。

 フランス人は別れるときに、「ア・ビヤントー」と言う。ビヤントーってのは、間もなく、すぐに、って意味だ。次にいつ会えるかわからない、ひょっとしたら一生会えるかわからないときも、この言葉を使う。どうせ誰にもわからないんなら、すぐ後で会える確率も、それが10年後になる確率も、一緒だからな。

 だから言おう、ア・ビヤントー。達者でな!




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2010.07.28 (Wed)

消えない国境 アウシュヴィッツにて

 まいったね。
 枢軸国には、まいったね。


 フランスでは5月、1ヵ月の間に祝日が4日ある。いわばプチ・バカンスだ。
 うち2日はキリスト教関係の祝日で、もう一つが5月1日。メーデーで、これはヨーロッパだとたいていどの国でも祝日だな。労働者がみな休むので、この日ばかりはバスなど公共交通機関も全面運休になる、こともある。街の規模によるけどな。
 で、最後の一つが5月8日。これ、なんだか知ってるかい?

 第2次世界大戦の終戦記念日なのよ。
 それぞれの町で式典が開かれる。終戦を祝い、戦没者を偲ぶわけだ。
 フランス人と一緒に見に行った番長、お前の母国に同じような式はあるか、と尋ねられた。あるけど、軍隊が行進することは絶対にねえ。死者を弔うという意味の方が強い。日本は戦敗国だからなと、答えたわけだ。

 そしたらだな、ツレが聞き返すのよ。「それ、どういう意味?」と。
 耳を疑ったが、「第二次世界大戦で日本が負けた」ということがピンと来てない様子なんだな。ツレってのは数人いたんだが、どいつもこいつもがだ。
 いやいや、日本はドイツ、イタリアと同盟を結んでいて、日独伊三国同盟締結は1940年、これテストに出るぞ。で、連合国と戦って。

 そういやあ、フランスやイギリス、アメリカは連合国で、レザリエとフランス語では言うが、日本とドイツの方の連合は何て言うんだ? と尋ねたのよ。

 知らない、と。
 いや、このとき番長と一緒にいたフランス人たちがとりわけボンクラってわけじゃねえんだぜ。
 これはちょっとした衝撃だったな。
 ヨーロッパにおいて第二次大戦とはすなわちナチス・ドイツと周辺諸国との戦争で、日本がどうなったかなんて知ったことじゃねえんだ。
 (ついでに言うと、イタリアは途中で枢軸国から抜けている)
 連中にとって、終戦記念日は8月15日じゃねえのよ。5月にはもう、戦争は終わってるんだな。

 こと第二次大戦とその直前の時期において、日本が世界史上で演じた役回りというのは結構なものだと思っていたんだが。
 その場では聞けなかったが、日本が唯一の被爆国であること、まして憲法9条なんてものが存在していることなんて、知られてねえんだろうなあ。
 ヨーロッパと日本の距離を、改めて感じた出来事だったぜ。

(後で調べたところ、ウィキペディアのフランス語版では、枢軸国は「アクス・ローマ・ベルリン・トーキョー」とされていた)



 さて、そんなことがあってからしばらく後のこと。
 ポーランドへ、アウシュヴィッツ強制収容所を見に行ってきた。
 ヨーロッパにいる間にぜひ見ておかなきゃなあと前から考えてたのよ。



s-au1.jpg
(ガス室で「大量生産」された遺体は、隣接する焼却炉で燃やされた)



 大量殺人が行われたガス室、マットの原料とするために収容者から刈り取った髪の毛、人体実験がされていたことを示す資料など、生々しく見応えのある展示物が多数あったぜ。
 番長は既に、だいぶ前のことではあるが他の収容所を見たことがあるし、「シンドラーのリスト」も見たし、あまり驚きはないかなと思っていたんだが、どうしてなかなか。
 少しでも興味があるならぜひ訪ねてみるといいよ。見るのにたっぷり1日かかる、というのはガイドブックの常套句だが、誇張抜きでかかるぜ。

 アウシュヴィッツは、広々としていてねえ。
 どこか明るい雰囲気すら感じられたぜ。



s-au2.jpg
(司令官室から見下ろした収容所群)



 一つには、施設が巨大だからだろう。面積およそ200万平方メートル、200ヘクタール。東京ドーム42~43個分。
 敷地の広大さに比べて、住居は極めて狭隘だった。狭い棚にわらを敷いただけの家畜小屋のようなところに、ピーク時には約14万人がすし詰めにされていたそうだ。
 しかし、太陽がさんさんと降り注ぐ収容所跡は、鳥がさえずり、のどかそのもの。一面の芝生で、ピクニックに最適といった趣すらあった。



s-au3.jpg
(第二アウシュヴィッツ、ビルケナウの一角。池の下には遺体を焼却した灰が埋められている)



 もう一つには、見学者の数が多いということがある。特にグループ・ツアーが多い。
 番長のような観光客もいたが、目に付いたのがポーランドの学生らしき一団。
 ポーランド人は学生時代に、必ず一度はこの地を訪れるんだそうだ。大部分は真剣なまなざしで回っていたが、人数が多くなると、そりゃ緊張感のないヤツも出てくるよな。
 一方では、ユダヤ人たちが涙を流しながら献花をしていて、当時と同じ時間が今も流れていることを感じさせられもしたぜ。


 そんなアウシュヴィッツの展示物の中に、この施設での犠牲者数を示したパネルがあった。
 ドイツ軍が資料を残さなかったため、正確な数はわかっていないらしいんだが、様々な研究がされ、犠牲者数を推定しているんだそうだ。
 そこにあった数は、全体で130万人が殺害された、というものだった。
 内訳が書いてあったぜ。国籍は様々ながら、ユダヤ人が110万人。

 ということは、残りの20万人は別の人々ということになる。
 ポーランド人が15万人。ロマ(ジプシー)が2万3000人。旧ソ連人が1万5000人。
 ロマは当時、ユダヤ人同様に殲滅すべき人種とされていた人たちだ。旧ソ連人というのは、ほとんどがソ連軍の捕虜。

 驚きだったのが、殺害されたポーランド人の多さだった。
 大半は政治犯だが、第二次大戦におけるポーランド政治犯というのは、つまりナチス・ドイツの占領に反対したすべての人のことだ。
 ポーランド人学生がアウシュヴィッツを訪れるのは、何も平和教育というお題目からではなく、この収容所こそが独立ポーランドの原点であり、ナチスに屈しなかったポーランド人の魂が眠る場所だから、というわけだな。
 恥ずかしながら番長、はじめて知ったぜ。

 ポーランド人は、こんなことを書いていることを知ったら、驚き、あきれるだろうな。そんなことも知らなかったのかと。アウシュヴィッツと言えばユダヤ人だけが犠牲になったように思い込んでいたのかと。
 日本が第二次大戦で負けたことも知らない、なんて訳知り顔に憤慨していた番長も、結局は同じ穴のムジナだったというわけだ。

 国際社会、と簡単に言うが。
 確かに移動や通信手段の発達で、飛行機やインターネットのおかげで、世界の距離は縮まったと思うぜ。
 EU域内にいると、パスポートチェックもなければ両替の手間もない。国境を越えたと意識することが、むしろ難しいほどだ。

 しかし、消えない国境というのもまた、あり続ける。



s-au4.jpg
(アウシュヴィッツへと収容者を運んだ列車の終着駅)




 いや、まいったね。
 その国境を克服しようとする努力と、妥協する寛容さが、共に必要なんだろうな。




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2010.07.16 (Fri)

一生フランスを離れられない? 国際離婚の後始末

 まいったね。
 国際離婚の後始末には、まいったね。


 離婚をするのは夫婦の勝手、というわけにはいかねえ。一番の被害者は、親のもめ事に巻き込まれる子どもだ。
 離婚をした後の子どもの処遇について、日本は世界の例外だってこと、アンタ知ってたかい?

 日本は単独親権と言って、離婚後は父親か母親のどちらか一方が子どもを引き取る。親権を持つ方の親は、子どもを育てる権利と義務を独占する。
 たとえば、母親が親権を持っている場合。離婚した父親は、前の妻の許可がなければ子どもに会うことすらできねえ。勝手に会いに行って連れ出しでもすれば、それは誘拐として犯罪になる。もう親権がないからな。

 他方、欧米では共同親権が一般的だ。これは、離婚した後も父親と母親の双方が親権を持つやり方。子どもがどういう生活をするかというのは各カップルごとに交わされた合意によって、それぞれ違うんだが。フランスの場合、期間を区切って双方の家で過ごすことが一般的だ。
 たとえば夏休み。フランスではおおむね2ヵ月ほどあるが、このうち7月の1ヶ月間は母親と、8月は父親と、ってな具合に過ごすわけだ。中には、普段も平日の月~金だけ母親と暮らし、週末は父親の家へ行くなんて場合もあって、決して珍しくない。引き回される方の子どもにとっちゃ、たまったもんじゃないかもしれねえがな。
 もちろん、離婚した親が再婚をしたり、別の愛人をつくったりなんてこともままある。その再婚相手も連れ子がいたりして、そういう「複合家庭」ってのがフランスにはごろごろしてんのよ。教育上はあんまりよろしくねえ気もするが、当のフランス人たちは「それが現実」と意に介さない様子だぜ。


 もっとも、比べてみれば、欧米諸国が共同親権を導入した理由ってのは明らかだ。親権を取れなかった親からすれば、子どもに対するすべての権利を奪われてしまい、会うことすらままならない単独親権ってのは、いかにも乱暴じゃねえか。他方、子どものことなんざ知ったことじゃないとばかりに親権を放棄するバカ親には、いつまでも養育の義務は続くんだってことをはっきりさせる効果が期待できる。
 子どもの立場からしてみたって、多少の面倒はあっても、双方の親がかかわった方が何かといいだろう。どっちが親権を取るかってんでドロドロした争いが起きることもなくなるし、日本でも導入した方がいいんじゃねえのか。共同親権になって困るのなんて、メロドラマの作家くらいのもんだろ。


 ところが、これが国際離婚となると、一つ厄介な問題が起きてくるんだな。
 たとえばフランス人男性と日本人女性のカップルが離婚したとする。女性がもう嫌だ、クニに帰りたいってんで日本に帰ろうとしても、子連れとなるとそう簡単にはいかないのよ。
 というのも。共同親権の場合、どちらかの親が引っ越す場合には、もう片方の親に必ず居場所を連絡しなきゃならない。そりゃそうだ、自分の子どもがどこにいるのかわからなくなっちまったら、会いに行くこともできなくなる。そりゃ親権の侵害だからな。
 ちなみに、移転先の住所を知らせなかっただけで6ヵ月以下の拘禁または7500ユーロ以下の罰金、住所を知らせないまま子どもを連れて引っ越してしまうと1年以下の拘禁または1万5000ユーロ以下の罰金、となる。
 で、日本に行くならそうやって事前に言っておけばいいわけだが。フランス人の夫の方にも親権があるから、拒否することができる。なんせ日本は遠い。時間も金もかかるし、行くにはパスポートやビザが必要だ。本当に帰ってくるかの不安もある。「自分が子どもと会う上で著しい障害になる」と申し立てれば、フランスの裁判所はこれを禁じる可能性が高い。
 つまり、子どもと一緒に暮らしたいと考える限り、ずっとフランスに居続けなきゃならねえってことが、起こり得るんだな。


 そりゃさすがに受け入れられないってんで、とにかく里に帰りたいってんで、実力行使に出る人もいる。子どもを連れてエイヤッと日本に出国するわけだ。中には夫の暴力に悩み、やむにやまれずって人もいる。
 しかし、どんな事情があろうが、これは犯罪になってしまうんだな。気付いた父親が素早く警察に連絡すれば、国境での出国審査で御用ということになる。もっとも、首尾良く日本国内にさえ入っちまえば、もうフランスの法律は適用されねえ。そのまま日本にとどまってる限りは逮捕されることもない。ま、二度とフランスの地を踏むことはできなくなるがな。
 ところが、実はこの点に関しても日本は例外でね。世界の82カ国が加盟するハーグ条約ってのがあって、もともと住んでいる国の外に子どもが不法に連れ去られた場合、子どもの返還を相手国に求めることができることになっている。日本は未加盟なのよ。
 もしこの条約に日本も加われば、こんなこともできなくなる。そして、どうやら近い将来、できなくなりそうだ。鳩山前首相が条約加盟の検討を指示したからな。


 この子どもの国外連れ去り、東アジア諸国の中では日本が目立って多いらしい。在仏日本大使館がこの6月に発行したメールマガジンによると、



国際結婚された方々の一部について、不幸にして結婚生活が破綻してしまい、一方の親が他方の親に無断で子供を国外に連れ出す「国際的な親による子の奪取」等の親権行使に関する問題が報告されています。
フランス政府はこのような問題の発生について、東アジア諸国の中で、日本人が関わる事例が最も多くなっていることを指摘し、また「日本の親による子の奪取」の事例では、具体的な解決策を見出せないものが多く発生していることを憂慮し、政府として真剣に取り組む意向を示しています。




 だそうだ。韓国でもなく中国でもない、日本が一番多いんだと。韓仏カップルや中仏カップルってのがどれほどいるのかよくわからねえし、両国の離婚制度についても知らねえが、しかし人口10倍の中国よりも多いってのは率直に驚きだな。
 しかも、フランス政府がわざわざ乗り出してきて、日本大使館に対してアピールしてると。こいつはただことじゃないぜ。
 なんだってそんなことになってるのか。番長が思うに、日本とフランスでは「離婚後の生活」の常識があまりにもかけ離れてるからじゃねえか。

 日本の最高裁が出した2008年度の司法統計によると、裁判所で調停が成立するなどした20299件のうち、親権者が母親となったのは18553件(91・4%)、父親は2274件(8・6%)。そのうち生活費(養育費)の支払いが決まった6455件をみると、支払者が夫なのは6341件(98・2%)、妻は114件(1・8%)だ。
 これを見てもわかるとおり、日本では「離婚をしたら子どもは母親が引き取り、父親は生活費を支払う」というケースが一般的なわけだ。育児は母親の仕事であり、親権は母親に、という考え方が根強く残っているからだな。

 ところがフランスは、説明したように共同親権の国だから、そういう考えはまかり通らねえ。女性が働くことも当たり前の国だから、養育費を父親だけに負担させるというのもまったく一般的じゃないんだな。
 むしろ、子どもを手元へ置くためには、しっかりとした収入の裏付けがあることが肝心になってくる。フランスでは、私はこういう安定した職に就いていて、これだけの給料があるから子どもを養えますよというのを証明することが、離婚調停では最も有効になってくるんだな。「収入もない彼女のもとに子どもは置けない」と元夫に主張されたら、共同親権の国とはいえ、夫にとって有利な決定が下るだろうな。専業主婦は圧倒的に不利ってわけだ。
 しかし、ただでさえ失業率の高いフランスで、日本人がオイソレと仕事なんて見つけられねえよ。結局、追いつめられた女性が取り得る手段ってのは限られてくる。その有力な一つが、子連れでの帰国強行ってことになるようだな。


 いや、まいったね。
 これから結婚をしようという人に、離婚のときのことを考えろとはなかなか言いにくいが。国際結婚をする前には、最悪の結果も想定して事を進めた方が良さそうだぜ。




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