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2010.07.12 (Mon)

番長に聞け! どうして日本人男子は海外でモテないの?

 まいったね。
 オトコの悩みには、まいったね。

 おなじみ「番長に聞け!」のコーナー。
 悩める子猫ちゃんたちのお悩みを、番長が快刀乱麻、ズバッと解決しちまうぜ。
 今回はこんなご相談。



 フランスに留学している学生です。日本人の女の子はフランス人にモテるのに、男はどうしてモテないんでしょうか?




 なるほど。今回は子猫ちゃんじゃなく子犬ちゃんからの質問だな。あるいは子豚ちゃんか。コビトカバか。ピグミーマーモセットか。ま、なんでもいいけどよ。
 それにしてもアンタ、恥も外聞もなくストレートなお尋ねだねえ。その勇気にまずは敬意を表しておくぜ。もっともこれ、よく海外に留学している日本人の間でネタになる話だよな。「留学生あるある」というか。

 確かに、こいつはフランスに限ったことでも、学生や若者に限ったことでもねえんだが、日本人の男は海外でモテない。と世間じゃ言われているな。他方、日本人の女の子は海外でモテモテ。これも、海外で生活した人ならまず否定する人はいないんじゃねえか。


 じゃ、なぜ日本の男はモテないのか。ネットで意見をざっと拾い集めてみたぜ。



・ルックスで劣っている 「顔が悪い」「背が低い」

・考え方や精神面の問題 「コミュニケーションがとれない」「男尊女卑だから」「ユーモアがない」「積極性に欠ける」「ロマンチックじゃない」「個性がない」「暗い」「主体性がない」

・セックスアピールに乏しい 「セクシーさに欠ける」「フェロモンが出てない」「セックスが下手」「モノがちいさい」




 そ、そんなに言わなくったっていいじゃねえかよ。番長も日本男児の一人として、なんだかいたたまれなくなってきちまったぜ。
 ただ、いかんせん全部当たっているようにも思えちまうんだな、残念ながら。

 だがしかし、だがしかしだ、同輩諸君! そう早計に悲観するこたあねえ。
 アンタの嘆きは番長がひとまず預からせてもらおうじゃねえか。
 よーく考えてみてくれ。そもそも、「女の子はモテて、男はモテない」。これは、日本人の枠をとっぱらっても言えることなのよ。


 どういうことかって?
 女の子ってのは、黙ってても男から言い寄られる。逆に、女の方から男を口説きにいくってことはほとんどない。告白しにいくのは男の方からだ。そりゃあもう、神代の昔から、洋の東西を問わず、そういうことになってんのよ。

 とか言ってると、いやそんなことはない、今じゃあむしろ女の方が積極的だ。草食男子という言葉を見ても、むしろ女の方から男にアプローチをかけることの方が多いってことじゃないか。なーんてお嘆きの声も上がりそうだが。
 じゃあこうやって言い換えてもいい。
 女の子ってのは、黙ってても男に痴漢をされるもんだ。逆に、女が男に痴漢行為を働くってことはほとんどない。もっと端的な表現が好きだってんなら、痴漢の部分をレイプと置き換えてもいいぜ。

 つまり、こいつは普遍的な事実なんだ。それを、さも日本人に特有の現象みたいにすり替えてるだけの話よ。
 喩えるなら、りんごダイエットとか、ゆでたまごダイエットとかな。りんごを食べてりゃ痩せる、ゆでたまごを食べてりゃ痩せるっていう、ちょっと前には大まじめに語られてたダイエット法があったじゃねえか。しかしこれは、りんごに痩せる成分が入ってる、ゆでたまごが消化の働きに変化を起こす、とかいうわけじゃねえ。りんごばっかり、ゆでたまごばっかり1日に何個も食べられないから、結果として接種カロリー量が減るってだけのことよ。カロリーの量を減らせばそりゃ誰だって痩せるだろうぜ。リバウンドの可能性は高いけどな。
 普遍的な事実に、よけいな限定条件をのっけて、のっけたものにさも効果があるかのように言いつのる。こりゃ典型的な詐術だぜ。

 かてて加えて、だ。言葉の問題があんだろ。口説く方はそりゃそれなりの語学力が必要になってくるよな。どっちの方がハードルが高いかは明白じゃねえか。そのへんが反映されてるんだろうよ。


 安心したかい?
 なんだ、シケたツラしやがって。疑問があるってのか。いいよいいよ、言ってみろよ。うん、その理屈はわからんでもないが、「同じ男でもフランス人の男はモテるのに日本人の男はモテない」って話じゃないのかと。ほう、そう言うのか。
 しょうがねえな、じゃあ違うってことを統計で証明してやっから。そう肩を落とすもんじゃねえよ。

 厚労省の統計によると、2008年に国際結婚をしたカップルは3万6969組。うち8割にあたる2万8720組は「夫が日本人」。「妻が日本人」というカップルは残りの8249組、2割に過ぎねえんだな。
 実は、男の方がモテてんのよ。

 もうちょっと詳しく統計を見てみようか。
 同じ年の結婚総数は72万6106組。つまり、全体の5%が国際結婚ということになる。20組に1組ということだ。ちと中学校の同級生たちの顔を思い返してみろよ。1クラスに少なくとも1人は国際結婚をしているヤツがいるって計算になるんだぜ。オイオイ、抜け駆けしたのはいったい誰だよ。これって相当多い印象だよな。

 で、国別の統計ってのもあってな。
 いちばん多い相手国はやっぱり中国で、1万3223組。ま、人口13億人だからな、割合としてはさほど多くないのかもしれねえ。
 じゃあ2位はどこか。やっぱりおとなり韓国だろう。在日コリアンとの結婚も国籍で統計を取れば国際結婚だしな。という大方の予想を裏切り、なんとフィリピンだ。7455組。次が「韓国・朝鮮」で、6665組ということになる。

 男女別の数字も見てみよう。フィリピン人男性と日本人女性のカップルは、なんと165組しかいねえ。97・8%がフィリピン人女性と日本人男性のカップル。7290組もいる。
 中国の場合も、92・3%が日本人男性のつくるカップル。これがコリアンになると68・4%まで割合が下がる。

 こいつはどう考えたらいいと思うね。
 さっき、女の子ってのは基本的にモテる、男はモテない、って話をしたよな。女の子はどうやって相手の男を選ぶのか。カッコイイとか、カネをたくさん持ってるとか、性格がすげえいいとか、まあいろいろあるだろう。
 つまり、平均点プラスアルファの部分があればあるほど、男ってのはモテるわけだ。
 フィリピン人や中国人から見て、日本人の男が持ってるプラスアルファってのは何かね。そりゃま、まずはカネだよな。そういうと聞こえが悪いが、つまりは生活環境、暮らしの豊かさだ。

 どの程度の割合になるのかは見当もつかねえが、中には偽装結婚、パスポートや就労ビザ、さらには日本国籍を取得するための結婚ってのも相当数あるだろう。
 フィリピンパブのオーナーや、パブに女の子を斡旋する業者なんてのは、若い衆に「おい、おまえちょっと結婚しろ」なんて言うのが日常茶飯事だからな。金に困って戸籍を売る日本人ってのもいる。ホームレスのところにヤクザが行って買い集めてるなんて話も聞くぜ。
 おっと、もちろん真面目に結婚してるカップルも多数いるんで、そのへんは誤解のないようにしてくれよな。

 どうだい、わかったかい。実は日本人の男ってのは、日本人であるというだけで、そんじょそこらの人よりモテるという、優遇された立場にいるんだよ。
 アンタの質問ってのは、正確にはこういうことだったんだ。「日本人の男はどうして白人女性にモテないんでしょうか」ってな。
 さらに厳密に言おうか。同じ白人でも、東欧の女の子だったら錦糸町のパブにもいっぱいいる。フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、オーストラリアといった、日本と肩を並べるような先進国の白人女性にモテないのはなぜですか、って質問なんだよ、それは。


 厚労省の統計に戻ろう。
 残念ながら、欧米で国別の統計があるのはアメリカとイギリスだけで、我らがフランスはなかった。もっとも、おそらく似たようなものだろうとは推測できるだろう。
 アメリカの場合、日本人女性とアメリカ人男性のカップルが1657組中1445組で、実に全体の87・2%を占める。イギリス人とのカップルは422組中363組が日本人女性によるものだったぜ。割合にして86%だ。
 フィリピンや中国の裏返し、ってわけだな。
 はっきりしたじゃねえか、力関係が。「ヨーロッパの女性>ヨーロッパの男性>日本の女性>日本の男性>アジアの女性>アジアの男性」ってよ。うーん、残酷なる現実だな。

 ここでアンタのオツムの中じゃ、疑問が生じてるだろうと思う。
 オイオイちょっと待ってくれ、フィリピンと日本の間にあるような格差は、日本とフランスの間にはないだろう、ってな。
 確かに、経済的には差はないわな。むしろ日本の方が豊かだろう。
 だが、こんな統計があるのよ。「適齢期の女の子たちは、同じ年頃の男の倍、海外に出てる」ってな。

 法務省の統計によると、2009年に日本を出国した人の数は1544万5684人。これは短期も含め、空港や港から出た日本人ののべ人数だ。性別では、男性53・2%、女性46・8%となっている。おおよそ半々だな。
 ところが、年代別に見るとまったく違う数字が出てくる。

 年を取ってから海外へ出国する人ってのはビジネスが多いからオッサン(男)が多い。
 対して、15~19歳では、男性が17万9542人(40・4%)なのに対して女性は26万4372人(59・6%)。
 20~24歳では男性36万1114人(32・0%)、女性76万5829人(68・0%)。
 25~29歳だと男性57万7194人(38・2%)、女性93万3017人(61・8%)。

 な。女性の方が圧倒的に多いのよ。特に20代前半に絞ると倍以上の差がある。
 海外に出る人数が多ければ、外国人と知り合いになる機会もそりゃ多い。恋に落ちる確率もまた高まるわなあ。

 なんだって女の子たちは海外を目指すのか。
 さっきのフィリピンや中国のケースを思い出してほしい。同じアジアンなのに、日本人だけを中国人やフィリピン人と切り離して考えるのはナンセンスだぜ。つまりは、日本人の女の子から見ても、欧米に渡った方が「豊かな暮らし」が待ってる、少なくともそう見えるってことなんだろうと、番長は思うのよ。
 女性は長らく就職で男性よりも不利で、日本では今もその傾向が残ってる。いったん会社に入っても、男性と同じような出世コースは歩めないことが多い。こりゃ事実だ。
 そんななか、女性の活躍が目立つ職場ってどこだと思うよ。たとえば教員。たとえば看護師、介護士。最近は弁護士や医師も多いな。これ、みんな資格の必要な仕事だ。逆に言えば、資格さえあれば産休後も復職がしやすい仕事ってことよ。
 通訳ってのも、女性の数が多い仕事の一つだ。語学も資格だからな。そこまでいかなくても、留学なりワーキングホリデーの経験ってのは、日本で就職するにしたって一つの売りにはなる。そのへんの切実さに差があるってことなんじゃねえか?


 関連して、もう一ついいかい。
 男と女じゃ、国際恋愛や結婚に対しても、切実さ、真剣さってのが違うと思うんだよな。
 なあ、ご質問のアンタ、男のアンタ。アンタが白人女性と恋に落ち、結婚するってことを妄想するとき、♪もしも私が家を建てたなら~と考えたとき、その家はどこにある。アンタ、どこに住んでる?

 おそらく何も考えてねえだろうが、それって日本なんじゃねえかな。フランスなりアメリカなりで一生を過ごすっていう覚悟は、アンタの頭にはなかったんじゃないかい。
 でも、結婚ってそういうことなんだぜ。恋愛の先にあるのって、そういう話なんだぜ。
 自分のことを棚に上げるわけじゃねえが、こと結婚って話になったときに、男ってのはそのへんの感覚がどっかヌルいのよ。たとえば、結婚で自分の名字が変わることを想像しないのと同じようにな。

 しかし、白人女性の方からしたって、日本なんぞに行きたかねえよ。となれば、そこを押して日本に連れ帰るだけの甲斐性があるか、異国に骨を埋める覚悟を見せるか、どっちかしかねえだろ。結局さ、そういうところで本気じゃねえのが相手に伝わっちまうってのもあるんじゃねえの。
 そこへ行くと女性ってのは、小さい頃から自分が家を出て嫁ぐ日ってのを考えたり感じたりしてるからな。男に比べると、そこのハードルは低いのかもしれねえ。


 いや、まいったね。
 ともかく女にモテたきゃ、精進しろってこった!




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2010.07.02 (Fri)

番長に聞け! フランス留学ってどんなもの?

 まいったね。
 留学生の悩みには、まいったね。


 またまた登場、「番長に聞け!」のコーナー。
 悩める子猫ちゃんたちのお悩みを、番長が快刀乱麻、ズバッと解決しちまうぜ。
 今回はこんなご相談。



 仏文科に通う大学生です。フランスに留学しようと思っています。
 外国で暮らすのはもちろん、親元を離れるのも初めてです。留学生活とはいったいどんなものなのか、いまひとつ想像できません。何か参考になる本などはないでしょうか。




 なるほど、なるほど。あんたエライじゃねえか。
 聞いたところじゃ最近、留学しようという若者の数が日本では減ってるんだろ。なんとも嘆かわしい話だと番長、思ってたのよ。やっぱ武者修行ってヤツが必要だよな、うんうん。

 で、留学生活とはどんなものなのかというお尋ねだが。実際にフランスで留学している人や、かつてしていた人のブログってのはネット上にごろっごろ転がってるから、読んでみるといいぜ。
 あとはなんだ、「成功する留学」だとか何だとか、そういう本も売ってんだろ。立ち読みでもしたらどうだい。
 番長から一つ言えるのは、来てさえしまえば何とかなるってこった。実は番長、実際にフランスの地を踏むまで、フランスとは縁もゆかりもない生活をしていてね。当然ながらフランス語もまったくできなかった。
 行くことが決まってから付け焼き刃的に会話教室に通ったりしたんだが、それでどうにもなるもんじゃねえよ。実際に生活を始めてみたら、あまりに何も聞き取れないんで泣きそうになったもんだぜ。ところが、習うより慣れろとはよく言ったもんだねえ。暮らしてるうちにある程度のレベルまでは何とかなっちまうんだな。
 ってなことなんで、ズバンと飛び込んで来てみな。なんとでもなっちまうから。


 と、こういうポジティブな情報ってのは、日本にもあふれてる。
 なぜって、フランス大使館をはじめとする公的機関や、留学業者あたりは、留学について悪く言うはずがないもんな。一人でも多くフランスに行ってほしいわけだから。
 それから、留学の経験者。よほど勇気のある人を除けば、留学が失敗だったとは言わねえよ。それは自分を否定することに他ならねえし、高いカネと貴重な時間とをかけたわけだしさ。
 しかし、物事にはなんでも裏表があるように、留学にももちろんネガティブな面はあるさ。留学生も日々苦悩してんのよ。

 そのことを既に1964年、今から50年近く前に書ききってる人がいる。遠藤周作って名前の作家だ。名前くらいは聞いたことあんだろ? その本のタイトル、ズバリ「留学」という。



留学 (新潮文庫)留学 (新潮文庫)
(1968/09)
遠藤 周作

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 全3章からなる物語なんだが、留学というテーマが同じなだけで、それぞれ主人公や登場人物には何の関係もない。このうち1章と2章はいずれも短編だ。

 まずは第1章「ルーアンの夏」の中から、一場面を見てもらおうか。主人公の工藤はカトリック教会の手招きでフランス西部のルーアンに留学する。周囲のフランス人たちの優しい態度に、まるで無知な子どものような扱いだと工藤は感じるが、善意から出ているとわかっているだけに煩悶する。
 以下、日本でのキリスト教の状況を聞かれた工藤と、フランスの司祭や信者の夫人とのやりとり。



「しかし、日本じゃ、知識階級の信者は少ないんです」
「それは教育の結果によるんじゃないかね。日本人がカトリックを理解できる知的水準になればその心配はなくなるだろう」
「我々の大学は、この国にくらべて劣っているとは思いませんが……」
 司祭の顔に薄笑いが浮んで、
「そう言う意味で言ったのではないのだ。しかし、君たちの国には大学の数は幾つあるかね」
「どんな小さな都市にも一つはあります。幾つか数えたことはありませんが、五、六十は大学をもっていますけど」
「それは君、大学とよぶもんじゃないだろう。仏蘭西ではそんなに軽々しく沢山の大学を作らないよ」

(中略)

「前から聞きたいと思っていたんですよ。日本の家は紙と木でできていると聞きましたけど」
「紙は窓硝子のかわりに使うんです」
「窓硝子のかわり」夫人は驚いた眼をして答えた。「考えられませんよ。風が吹いたらどうなるのです」
(中略)説明すればするほど、夫人たちは奇妙なイメージを頭につくりあげていく。工藤はくたびれ果てて、しきりにハンカチで額をふいた。自分のもどかしい仏蘭西語に次第に腹がたってくる。仏蘭西語だけではなく、こうした無理解な質問に答えねばならぬ自分に腹がたってきた。(中略)こんな町になぜ何時までも住まねばならぬのだ。畳を干した藁と混同し、障子をただの紙だと想像する連中になぜ、この夏のあいだ、つきあわねばならぬのだ。




 うーむ、「フランスあるある」だな。
 いや、さすがに現在では、ここまであからさまな日本に対する無知ってのはねえよ。だが、フランスにとって、極東に位置する日本ってのは本当に遠いとおーい国なんだ。香港や台湾と区別が付いてない程度なら笑って済む話だが、ここでの工藤のような違和感やもどかしさってのは常につきまとう。
 多くのフランス人にとって、フランスにいる日本人の知り合いってのは、身近にいるただ一人の日本人。つまりフランスの日本人ってのは、一人一人が日本代表なんだよな。当然のごとく日本のあれこれを尋ねられる。それがフランス人のイメージする日本と違っていると、ひどい居心地の悪さを感じさせられることがあるんだな。
 番長、日本では生活保護費が月13万円だって言ったら、そんなわけないとキレられたことがあったぜ。高すぎると。いやいや、事実だからしょうがねえだろ。おそらく、フランスは税金こそ高いが福祉の充実した国だってのが、自慢だったんだろうな。


 さて、遠藤周作の「留学」に戻ろうか。
 メインは第3章の長編「爾も、また」ということになる。
 あらすじを説明しよう。主人公の田中は仏文学科の助手でマルキ・ド・サドが専門。希望と野心を胸にフランスに留学するが、研究で壁にぶつかり、日本では学内の地位を追い落とされ、密かに眼をかけていた女学生は結婚。さらには病に体をむしばまれて喀血、失意のうちに帰国する。そんな物語だ。

 田中以外の主な登場人物はこんな感じよ。



向坂……田中と同宿の日本人建築家。歴史あるヨーロッパ文化に真正面から取り組もうとしてほかの日本人留学生たちから孤立。肺病にかかり、田中に見送られながら帰国の途につく。

真鍋……作家。パリで一流の芸術品と直接向き合ううち、自らの才能の限界を知って帰国する。

小原……日本銀行の駐在員として30年前にフランスへ赴任、フランス人女性と結婚してそのまま居着くが、家庭で妻と子どもから馬鹿にされている。日本への望郷の念を募らせる。

菅沼……田中の後輩で売り出し中の仏文学者。大学内で実権を握った助教授のとりなしで田中から間を置かずに渡仏。社交的なタイプで、悪気はないが田中を苛立たせる。

ルビイ……フランスでのサド研究の第一人者だが、己の功績が認められずひがんでいる。訪ねてきた田中を冷たくあしらう。

藤堂……在仏12年の自称天才画家。芽が出ず、渡仏した日本人の小間使いのような仕事で生計を立てているが、プライドだけは人一倍。




 どうだい、こんなワクワクするような面々が織りなす物語。田中とあわせて7人だが、「男女7人夏物語」も裸足で逃げ出す人模様だろ。
 長旅を終えて空港に降り立った田中は、パリ市内へと向かうバスのアナウンスが聞き取れなかったり、自分に対する扱いが日本と違ってひどく惨めなことに当惑し、落胆する。やっとのことでパリ滞在中の宿となるホテルにたどり着いた田中は、たまたま以前から同宿に逗留していた日本人の向坂と出会い、こんな会話を交わす。



「なんだか、想像していた巴里とちがうみたいで……とても冷酷な街ですねえ」
「そりゃあ」向坂は建築家らしいものの言い方をした。「この巴里の家も路も教会も石の集積だし、その石に一つ一つの歴史の重みがある。巴里にいることは、その重みをどう処理するかという生活の連続です。ぼくみたいに二年組になってくると、この重みと圧力が肉体にも心にも苦痛になってくることがあるんです」




 そんな向坂は肺病にかかり、帰国を余儀なくされる。そのときの台詞。



 「何時(いつ)か、言ったでしょう。この国に来る日本人には3種類あるって。この石畳の重さを無視する奴とその重みを小器用に猿真似する者と、それから、そんな器用さがないために、ぼくみたいに轟沈してしまう人間と……」




 暗い、暗いねえ。
 人によっては、しょってんじゃねえよ、くらいに思うのかもしれねえ。確かにそういう面もある。この小説が書かれたのは敗戦直後、日本人が西欧に対する圧倒的なコンプレックスに苛まれていた時代だ。そこは差し引かなきゃならねえ。
 だがこの台詞、フランスに暮らすということの本質を突いているような気がするぜ。
 フランス生活、異国での生活ってのは、チャラチャラしたもんじゃねえのよ。


 そんな「留学」の中で番長がいちばん好きなのは、終盤、田中がリヨンの街を訪れる場面。ノートルダム聖堂やローマ劇場のあるフルヴィエールの丘で、彼はこんなことを考えるんだな。



 ここで彼が感動したものはそんな名所旧跡ではなかった。奇妙なことだが、彼は丘の上からリヨンの街を見おろした時、なぜかわからぬが、急に涙が出そうなほどの感動に捉えられた。

 街はまるで灰色の大きな染みのようにみえた。工場から煙がながれ赤っぽい屋根をもった家々がソーヌ河とローヌ河とを間にはさんで拡がっている。路には小さな人が歩き、電車が走っている。点々と沢山の教会の塔がそうした家々や路や、くりひろげられている様々な生活の上に土台をおろして灰色の空にむかって、鋭く細いその先端をさしのべていた。耳をすますと街のざわめきにまじって鐘の音までかすかにきこえた。街の尽きたところからは、哀しそうに褐色の平野がひろがり、紫色の靄の中に消えていった。

 (これがヨーロッパだ)

 ふいに田中はそう思った。これがヨーロッパなのか、自分でもはっきりわからなかったし、日本にいた時のほうが、同じ質問を誰かに受けたなら、もっと明快に答えられたかもしれぬ。しかし、今、考えてみるとあんなものは書物の上での知識だった。僅かだが、この国に来て生活しているうちに自分が以前、考えていたのとは別のヨーロッパを感じはじめたのだ。その感じが今、リヨンという街を通して眼の前にある。この灰色の哀しそうな生活の拡がり。車の音、人々のざわめき。そしてそのみすぼらしい人生の中に尖塔へ曇った空の割れ目から数条の光線が落ちている。田中にはヨーロッパというものが、長い間、本質的にはこのような姿でうずくまってきたような気がしてならなかった。




 うーん、沁みるねえ。灰色の空と灰色の町、これぞフランスだぜ。

 なにも番長、若いアンタのやる気を挫こうってんじゃねえ。むしろその逆だ。フランスじゃなくてもいいが、ぜひ若いうちに海外に打って出てもらいたい。だが、マカロンとエッフェル塔がフランスだと思ってんなら、悪いことは言わねえから観光旅行にとどめておきな。こういう暗さも受け止められる人にこそ、渡仏してもらいたいぜ。

 勘違いしてもらいたくねえんだが。日本人には海外で学ぶ人間が少ない、英語もろくにできない、だから日本は国際社会で取り残される。そんな議論があるよな。番長、こういった意見には与しねえ。お国がどうなるこうなるなんてのは知ったこっちゃねえよ。
 ただ、人間の深みってのは踏んだ場数で決まってくると思うんだよな。海外に行けばそれでいいってわけじゃねえが、行かないよりはいいだろうさ。

 このサイトは、日本人が勝手に抱いているフランスへの幻想を、それは誤解だよと言うためにつくったものだ。だから番長は、アンチ・フランスの日本大好きっ子と思われることが少なくない。
 だが、そうじゃあねえんだ。フランスの都合のいい面だけを見る、正露丸に砂糖をまぶして飲み込むようなマネはやめてくれ、ってことなんだな。


 いや、まいったね。
 もうすぐ夏休みだ。9月にはフランスでは新学期が始まる。今年もたくさんの工藤や田中が、日本から来るんだろう。幸運を祈ってるぜ。




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2010.06.25 (Fri)

バカにしないでバカロレア フランスお受験事情

 まいったね。
 フランス式の入試には、まいったね。


 久々登場、「番長に聞け!」のコーナー。
 悩める子猫ちゃんたちのお悩みを、番長が快刀乱麻、ズバッと解決しちまうぜ。

 今回はコメントに寄せられた、ミントさんのこんな質問だ。
 内容は番長の方で要約させてもらったぜ。



 パリ14大学に在籍中の番長さん、フランスの学校について教えていただけますか?
 パリの大学への入学は、先着順に決まると聞きました。学生には数々の特典が与えられているため(メトロとか?)、中には本当にその大学に行きたいわけでなくても、その特典の為に申し込む人達もいるとか。知人の娘さんは真剣に行きたくて頑張っていたけど入れなかったそうです。今は予備校みたいなところに行って、来年またトライするとか。
 もちろん、特典のために入った人達は入ってからどんどん落とされて行くのでしょうが、最初の門戸は誰にでも平等に開けられているということなのでしょうか。パリの大学は皆公立とか?

 また、中3のお子さんをお持ちの方が、高校に入る時には職業訓練系か学業系か(適切な言葉かはわかりませんが)決めていなくてはいけないと伺いました。16才で決めなくてはいけない? 私なんて(私だけかもしれないけれど)高3でも大学でも将来何になりたいかなど、はっきりとはわかっていませんでした。




 なるほどなるほど。そういや番長、パリ第14大、略してパリキャト大に在学中だったな。今日も元気に学ラン背負い、腰から提げた純白の手ぬぐいがマブしいと評判の番長が、ご質問にお答えしよう。

 フランスの大学入試の場合、バカロレアという試験がある。かのナポレオン1世が始めた統一試験で、高校生はほぼ全員がこれを受ける。出される問題はフランス全土で同じ。フランス語、数学、歴史・地理、物理・化学、外国語などの教科別になっていて、自分の進路ごとにどれを受けるかは違ってくる。そういう点では日本のセンター試験、ちょいと前なら共通一次試験と同じってことになるな。
 ただ、出題の傾向は全然違う。センター試験と言えばマークシート、塗りつぶすための2Bえんぴつを忘れないでねってヤツだが、バカロレアにはまず選択式の問題ってのがない。というか、知識の詰め込みで対応できるような出題はされない。ドカーンと大きなお題が出され、それに関してひたすら論述を続けるというスタイルだ。しかも1科目あたりの持ち時間は3~4時間。うーん、アゴが上がるぜ。

 他にも特色としては、科目の中に哲学ってのがあり、文系・理系・社会科学系を問わず必修だ。いかにもフランスらしいじゃねえか。提示された3つのお題のうち1つを選んで自由に記述するって形式なんだが、このお題ってのがふるってるんだな。2010年の文系向け出題だと、



 1.真理の探究は私心なく行えるのか。
 2.未来のためには過去を忘れなければならないのか。
 3.トマス・アクィナスの「神学大全」について解説せよ。




 といった具合。これを4時間かけてやる。18歳にゃ荷が重くねえかと心配になっちまうが、こういうのをスラスラできねえと一人前のフランス人にはなれねえんだろう。


 このバカロレア、国家資格の試験という位置付けだ。バカロレアに合格するということは、大学に入ることができる資格を得るということに他ならねえ。同時に、高校での学業をちゃんと修めましたよという証明でもある。
 バカロレアは難関と言われていて、問題を見る限りは確かに大変そうだが、そうは言っても8割くらいの受験生が合格する。ま、フツーに勉強してりゃちゃんと受かるってことだな。
 で、フランスにある大学ってのは、バカロレアさえ取ってれば、どこでも自由に入れることになっている。

 と聞くと日本人は驚くことが多い。そりゃ、誰でもトーダイ・キョーダイ・キューテーダイに入れるってことじゃねえか。んなことしたら一部の大学だけに人が集中しちまう、駅弁大学や東淀川大学雑学部みたいなとこは干上がっちまうだろと。
 心配ご無用ゴム長靴よ。こんな仕組みになってるから、フランスの大学には日本で言う偏差値の差みたいなもんがない。どの大学に行ったかで就職活動が有利になることもないんだな。
 たとえばパリ大学ってのは、ヨーロッパでも最も古い時代からある由緒正しい学校で、過去に多数の著名人を排出している名門だ。そこらの大学に比べて知名度は高い。だからと言って、パリ大学にいたと言ってもフランスでは別に何とも思われない。中で何をしたかが問題になってくるのよ。
 そのへんは、東大卒や京大卒なんてのが、一生を通じて保険になるようなピッカピカの金看板として通用する日本とは全然違う。
 どこの大学へ通ったところで基本的には同じだから、志望者はバラける道理ってわけだな。

 と、そうは言ってもやっぱりそれぞれの大学に集まる学生の数には差がある。歴史のある大学や医学部は人気が高い。田舎の辺鄙な場所にある大学はその逆だ。しかし、それぞれに定員ってものがある。定員以上の学生が集まっちまったらどうするのか。
 ご指摘の通り、先着順で区切っちまうんだな。応募の仕方は大学によって違うようだが、徹夜の列ができたり、ネットの募集枠が2分でいっぱいになったりすることもあるそうだ。チケットぴあ並だな。それと、バカロレアには追試もあるんだが、一発合格したヤツが有利ってことになるな。
 他にも、その大学がある地域の出身者を優先するとか、バカロレアの点数が高い順にするとか、高校時代の成績をみるとか、別に面接や試験を科すとか、それぞれの大学で独自にやっているようだ。

 いずれにしても日本に比べりゃ、大学に入るのは簡単。大変なのはそれからだ。フランスの大学ってのは試験だレポートだってのが山ほど課されることでおなじみなのよ。で、学年末には毎回バカロレアのようなシビアな試験が待ち受けている。きちんと学位をとって卒業できるのは、おおよそ入学者の4分の1くらいじゃないかと言われているぜ。
 フランスの大学ってのは日本のように入ったら4年は安泰っていうんじゃなく、1年ずつ積み上げていくって感じなんだな。で、大学の中でできるすべてのことを習得するには4~5年かかるが、たとえば3年修めた時点で大学を出るという学生も珍しくねえ。履歴書なんかでは「bac+3」なんて書き方をする。bac(バック)ってのはバカロレアの略称。バカロレアに加えて大学で3年間分の学位を取得しましたよ、という意味だ。

 さて、ご質問の中に特典のお話があったな。学割のサービスは各所である。学食では2ユーロ程度と格安でメシが食える。ただ、このへんの話もすべての学生に共通した話で、ドコソコ大学の学生だから特別に……って話は番長は知らねえ。いや、あるのかもしれねえよ。この点ではちょっと、番長お役に立てないようだ。

 それと、予備校ってのはフランスではあまりお目にかからねえ。一応存在はしていて、最大手はアカドミアって名前で108校があるそうだが、まあ日本の大手に比べりゃこぢんまりとしたもんよ。英会話教室のポスターならそこかしこで見るけどな。そうそう、家庭教師ってのもあるが、こっちも細々とやってる感じだな。日本みたいな受験産業ってのは、フランスにはないと言っても言い過ぎじゃねえだろう。
 このへんはやっぱり、どの大学に入っても差がないってのが影響してるんだろうな。なんせバカロレアの合格率ってのは、まあ年によって違うんだが、おおむね80%程度。つまり、5人に4人は受かるわけだ。だとすれば、塾だ家庭教師だに高い金をつぎ込む必要はないよな。加えて言えば、あんな出題をされちまっては、小手先の受験テクニックを詰め込んでも通用しねえって部分もあるだろう。

 それから、後段の「職業訓練系か学業系かを決めなきゃいけない」という話。これもその通りで、そもそもバカロレアには、大学に進学する連中が受ける「普通バカロレア」のほかに、「技術バカロレア」「職業バカロレア」がある。それぞれ職種別に細かく分かれていて、試験には実技もプラスされる。パン屋だろうが事務員だろうが大工だろうが、バカロレアは受けなきゃならねえ。こちらは高校卒業証明、職業資格としての性格が強い。
 ただまあ、高校の時点で意思決定をすると言っても、日本とそう違いはしねえんじゃねえかな。たとえば日本の高校だって、工業高校や商業高校なんかに入れば、おのずと進路は狭まる。そういうもんなんだろうよ。逆にフランスでも、普通バカロレアを受ける大多数の生徒は、己の行く末を大学にいる間にゆっくり考えるわけだ。
 というわけでミントさん、おおよそのところはわかっていただけたかな?


 いや、まいったね。
 受験と言っても日本とフランスじゃ、ずいぶん違いがあるってこったな。
 ところで、今回は書かなかったが、フランスには大学とはまったく体系の異なる最高学府として、グランゼコールってのが存在する。それについてはまた別の機会ってことで!




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