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2010.02.21 (Sun)

おふくろの味はゆでタマゴ ~フランス家庭料理事情

 まいったね。
 フランス版おふくろの味には、まいったね。


 以前も書いたように、フランスには専業主婦がほとんどいない。
 なぜなら、出産をしても女性が仕事を辞めなくていいからだ。



s-researchgoo.jpg
「goo research」より)



 仕事を続けたい女性が仕事を続けられるのは、素晴らしい。
 だがフランスでは、専業主婦になりたい女性が仕事を辞められない雰囲気がある。そこは逆に自由じゃなくなっちまってるきらいがある、ということは前に書いた


 そればっかりじゃなく、物事には光があれば影もあるわな。
 たとえば、父ちゃんも母ちゃんも働きに出てるとなれば、家事は誰がやるのか。
 もちろん二人で分業するんだが、スーパーマンじゃねえんだ。おのずと限界がある。どっかしらを削ぎ落とさなきゃなんねえ。

 三度のメシもまたしかりだ。
 今回はそのメシという面から、現代フランス家庭事情について書いてみようと思うぜ。


 子猫ちゃんたちは、フランスと言えばグルメの国だと思ってるんじゃないかな。
 しかし、フランス人たちが普段食ってるものというのは、実に質素なもんだぜ。
 質素と言っても、「冷蔵庫の残り物をさっとクッキング」なんていうレベルにすら達してないのよ。
 昆布と鰹節で出汁をとるのは手間がかかるから「ほんだし」を使うとか、そんないいもんじゃないのよ。


 アンタ、「ピカール」ってなんだか知ってるかい?
 金属磨き液ってわけじゃ、ねえんだぜ。



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(日本のピカール、日本磨料工業株式会社ウェブサイトより)




s-picard.jpg
(フランスのピカール、kelmagasin.comより)



 フランスのピカールってのは、フランスでは有名なスーパーなのよ。
 何がすごいって、店内の商品はすべて冷凍食品なんだぜ。
 冷凍食品しか売ってないんだ。

 店の広さは普通のスーパーと変わらないか、むしろよりデカイくらいだってのによ。
 これがまあ、何から何まで売っててな。味もそう悪くない。安くはないが、忙しい時には便利なもんだ。

 店舗数は、なんとフランス全土で700を超えるそうだ。それだけ需要があるってことだな。
 子どもをほっぽり出して仕事して、あげく晩飯は冷凍食品なんて言うと、日本じゃ悪い親の典型と言われそうだが。フランスじゃあしっかりと市民権を得ているということがわかってもらえただろうか。

 もちろん、普通のスーパーにも冷凍食品は売られていて、人気がある。土曜日なんかは一週間分の冷凍食品を買い込もうとする人でいっぱいだぜ。
 ただ、どうしたって冷凍モノってのは、ピザだの揚げ物だので、塩分やカロリーは高くなるよな。
 そんなこんなでフランスではいま、増えすぎた肥満児が社会問題化してんのよ。おいおい、アンタらが日頃バカにしているアメリカと、何も変わらねえじゃねえか。


 おっと、フランスをなめてもらっちゃ困るぜ。
 まだまだこんなもんじゃねえんだ。
 ピカールで売ってる晩飯なんてのは、ほんのご愛嬌なのよ。


 番長あるとき、フランス人に、アンタにとって家庭の味っていうと何なんだい、って聞いてみたんだな。
 こっちの頭の中には、キッシュ(生クリームと卵を混ぜたパイ生地にベーコンや野菜を入れて焼いた料理)やポトフ(肉や野菜の煮込み)なんかが、あらかじめイメージとして頭の中に浮かんでるわけじゃねえか。

 そしたら、ポンフリだって言うんだよ。
 ポンフリってのは、正確に言うとポム・フリット、英語で言うところのフライドポテトだ。
 そりゃオマエ、フライドポテトもうまいだろうけど、日本で「かあちゃん自慢の一品と言えば白いご飯だい」って言うようなもんだぜ。

 おっと、誤解のないようにしておかなきゃあな。日本ではフライドポテトと言うと添え物っぽい印象かもしれんが、フランスではメインディッシュに合わせて出てくるライスの皿みたいな存在だ。
 ステーキやムール貝の蒸したもの、あるいはサンドイッチなんかと一緒に、大量に皿に盛られたのが出てくる。コイツはその、皿盛りライスこそが家庭の味だって言ってるわけだ。メインはねえのかよ。


 まあ、これはたまたまトンデモ母ちゃんだったのかもしれねえ。
 また別の野郎にも聞いてみた。
 今度はウフ・マヨネーズだと答えやがった。

 どうやらフランス料理っぽくなってきたと思ったかい? ところがぎっちょんキリギリス。
 ウフってのは卵のこと。マヨネーズはマヨネーズだな。
 あのな、ウフ・マヨネーズってのはさ、ゆで卵のマヨネーズがけのことなのよ。



s-oeufmayonnaise.jpg
「regime homme」より、ウフ・マヨネーズ)



 いや、ウフ・マヨネーズ自体は、確かに由緒正しいフランス料理らしい。
 レストランでも、気取らない感じのところはメニューに載せてる。
 マヨネーズの味に凝ったり、生野菜を添えてみたり、連中に言わせりゃそれなりに奥の深いもんらしい。

 だが番長、日本のフランス料理店でこのウフ・マヨネーズを出すというところを、寡聞にして知らねえ。
 理由はわからんし、ひょっとしたらそういう店もあるのかもしれないが、薄々想像は付く。こんなもん出したら日本人は怒るだろうってな。

 だってだぜ、ゆで卵にマヨネーズをのっけてモサモサ食うなんて、夜中に小腹を空かせた食いしん坊が胃の活動を抑えるため、やむを得ずすることじゃねえか。


 この粗食というか貧食ぶり、番長のまわりが特別だってわけじゃあないらしい。
 パリに住んで40年になるという日本人、ミツコ・ザハー先輩はこんなふうに書いてらっしゃる。



 そこで、フランス人のおふくろの味ってなんなのか、という話題になったのだが、意外な事実が判明した。うちのママンが料理したのを見たことないとか、料理が嫌いとか、料理すると家中匂うから、キッチンが汚れるからやらないとか、嘘でしょ? みたいな話ばかりですぐには信じられなかった。

(中略)

 では、と質問を変えてみた。子供の頃は何を食べていたのか?

 朝はネスクイック(インスタント・チョコレートをミルクで溶く)とコーンフレーク、とかカフェオレにタルティーヌ(バゲットにバター)がほとんど、昼はカンティーヌ(給食)、おやつはパンオショコラが一般的のようだ。だが聞いてひっくり返るのはディナーである。パリの母親の80%は仕事を持っているということもあるだろうが、毎日の子供の夕飯のお粗末なことと言ったら……。

 「お昼に給食をきちんと食べていれば栄養はちゃんと摂れているハズよ、夜は軽い方が消化にも良いし」という理由のもとにハム1枚(だけ)とか、出来合いのクレープにジャム(だけ)とか、冷凍ピザをチーンする(だけ)とか、なんとも……淋しい。スパゲティにケチャップとグルイエール・チーズの時はご馳走だと思った、と聞いて私は悲しくなってしまった。

 それも、週に半分以上はベビーシッターやお手伝いさんと一緒に食事をして、親は(半数が離婚家庭)子供達が寝てから出掛けたり、友人達を呼んで遅い時間に食事するので何を食べていたのか知らない、と言う。


(ミツコ・ザハー著「パリジャンは味オンチ」p46-47)



 な。
 こうなってくると、なんだかむしろ、泣ける話になってきただろ。

 食い意地の張った番長からすると、こうなってくるともはや家事をする時間がないというだけの問題ではなく、この人たちは、フランス人たちってのは、食うことの喜び、食への執念ってもの自体が欠けてるんじゃあねえかすら思えてくるぜ。


 このあたりの貧食っぷりと、共働き家庭が多いこととの間にはたして関係があるのかどうか。
 それは番長にはわからねえ。
 しかし、こんな食事でもいいんだっていうハードルの低さが、働く女性を楽にしているってところは確実にあるだろうな。
 コンビニ弁当や菓子パンなんてのはかわいいもんじゃねえか。

 フランスはいま、先進国の中では例外的に、出生率がどんどん上がっている。少子化に悩む日本では、フランスに学べ!ってな議論も多い。
 だが、もしフランスを真似ることで出生率の向上を目指そうというんであれば、こういう統計の数字には現れないところまでしっかりマネしていかねえと、成果は上がらないだろうぜ。


 いや、まいったね。
 日本では食育なんてことが盛んに言われているが、フランス人に言わせりゃ、それもアナクロなのかもしれねえな。




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