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2010.06.25 (Fri)

バカにしないでバカロレア フランスお受験事情

 まいったね。
 フランス式の入試には、まいったね。


 久々登場、「番長に聞け!」のコーナー。
 悩める子猫ちゃんたちのお悩みを、番長が快刀乱麻、ズバッと解決しちまうぜ。

 今回はコメントに寄せられた、ミントさんのこんな質問だ。
 内容は番長の方で要約させてもらったぜ。



 パリ14大学に在籍中の番長さん、フランスの学校について教えていただけますか?
 パリの大学への入学は、先着順に決まると聞きました。学生には数々の特典が与えられているため(メトロとか?)、中には本当にその大学に行きたいわけでなくても、その特典の為に申し込む人達もいるとか。知人の娘さんは真剣に行きたくて頑張っていたけど入れなかったそうです。今は予備校みたいなところに行って、来年またトライするとか。
 もちろん、特典のために入った人達は入ってからどんどん落とされて行くのでしょうが、最初の門戸は誰にでも平等に開けられているということなのでしょうか。パリの大学は皆公立とか?

 また、中3のお子さんをお持ちの方が、高校に入る時には職業訓練系か学業系か(適切な言葉かはわかりませんが)決めていなくてはいけないと伺いました。16才で決めなくてはいけない? 私なんて(私だけかもしれないけれど)高3でも大学でも将来何になりたいかなど、はっきりとはわかっていませんでした。




 なるほどなるほど。そういや番長、パリ第14大、略してパリキャト大に在学中だったな。今日も元気に学ラン背負い、腰から提げた純白の手ぬぐいがマブしいと評判の番長が、ご質問にお答えしよう。

 フランスの大学入試の場合、バカロレアという試験がある。かのナポレオン1世が始めた統一試験で、高校生はほぼ全員がこれを受ける。出される問題はフランス全土で同じ。フランス語、数学、歴史・地理、物理・化学、外国語などの教科別になっていて、自分の進路ごとにどれを受けるかは違ってくる。そういう点では日本のセンター試験、ちょいと前なら共通一次試験と同じってことになるな。
 ただ、出題の傾向は全然違う。センター試験と言えばマークシート、塗りつぶすための2Bえんぴつを忘れないでねってヤツだが、バカロレアにはまず選択式の問題ってのがない。というか、知識の詰め込みで対応できるような出題はされない。ドカーンと大きなお題が出され、それに関してひたすら論述を続けるというスタイルだ。しかも1科目あたりの持ち時間は3~4時間。うーん、アゴが上がるぜ。

 他にも特色としては、科目の中に哲学ってのがあり、文系・理系・社会科学系を問わず必修だ。いかにもフランスらしいじゃねえか。提示された3つのお題のうち1つを選んで自由に記述するって形式なんだが、このお題ってのがふるってるんだな。2010年の文系向け出題だと、



 1.真理の探究は私心なく行えるのか。
 2.未来のためには過去を忘れなければならないのか。
 3.トマス・アクィナスの「神学大全」について解説せよ。




 といった具合。これを4時間かけてやる。18歳にゃ荷が重くねえかと心配になっちまうが、こういうのをスラスラできねえと一人前のフランス人にはなれねえんだろう。


 このバカロレア、国家資格の試験という位置付けだ。バカロレアに合格するということは、大学に入ることができる資格を得るということに他ならねえ。同時に、高校での学業をちゃんと修めましたよという証明でもある。
 バカロレアは難関と言われていて、問題を見る限りは確かに大変そうだが、そうは言っても8割くらいの受験生が合格する。ま、フツーに勉強してりゃちゃんと受かるってことだな。
 で、フランスにある大学ってのは、バカロレアさえ取ってれば、どこでも自由に入れることになっている。

 と聞くと日本人は驚くことが多い。そりゃ、誰でもトーダイ・キョーダイ・キューテーダイに入れるってことじゃねえか。んなことしたら一部の大学だけに人が集中しちまう、駅弁大学や東淀川大学雑学部みたいなとこは干上がっちまうだろと。
 心配ご無用ゴム長靴よ。こんな仕組みになってるから、フランスの大学には日本で言う偏差値の差みたいなもんがない。どの大学に行ったかで就職活動が有利になることもないんだな。
 たとえばパリ大学ってのは、ヨーロッパでも最も古い時代からある由緒正しい学校で、過去に多数の著名人を排出している名門だ。そこらの大学に比べて知名度は高い。だからと言って、パリ大学にいたと言ってもフランスでは別に何とも思われない。中で何をしたかが問題になってくるのよ。
 そのへんは、東大卒や京大卒なんてのが、一生を通じて保険になるようなピッカピカの金看板として通用する日本とは全然違う。
 どこの大学へ通ったところで基本的には同じだから、志望者はバラける道理ってわけだな。

 と、そうは言ってもやっぱりそれぞれの大学に集まる学生の数には差がある。歴史のある大学や医学部は人気が高い。田舎の辺鄙な場所にある大学はその逆だ。しかし、それぞれに定員ってものがある。定員以上の学生が集まっちまったらどうするのか。
 ご指摘の通り、先着順で区切っちまうんだな。応募の仕方は大学によって違うようだが、徹夜の列ができたり、ネットの募集枠が2分でいっぱいになったりすることもあるそうだ。チケットぴあ並だな。それと、バカロレアには追試もあるんだが、一発合格したヤツが有利ってことになるな。
 他にも、その大学がある地域の出身者を優先するとか、バカロレアの点数が高い順にするとか、高校時代の成績をみるとか、別に面接や試験を科すとか、それぞれの大学で独自にやっているようだ。

 いずれにしても日本に比べりゃ、大学に入るのは簡単。大変なのはそれからだ。フランスの大学ってのは試験だレポートだってのが山ほど課されることでおなじみなのよ。で、学年末には毎回バカロレアのようなシビアな試験が待ち受けている。きちんと学位をとって卒業できるのは、おおよそ入学者の4分の1くらいじゃないかと言われているぜ。
 フランスの大学ってのは日本のように入ったら4年は安泰っていうんじゃなく、1年ずつ積み上げていくって感じなんだな。で、大学の中でできるすべてのことを習得するには4~5年かかるが、たとえば3年修めた時点で大学を出るという学生も珍しくねえ。履歴書なんかでは「bac+3」なんて書き方をする。bac(バック)ってのはバカロレアの略称。バカロレアに加えて大学で3年間分の学位を取得しましたよ、という意味だ。

 さて、ご質問の中に特典のお話があったな。学割のサービスは各所である。学食では2ユーロ程度と格安でメシが食える。ただ、このへんの話もすべての学生に共通した話で、ドコソコ大学の学生だから特別に……って話は番長は知らねえ。いや、あるのかもしれねえよ。この点ではちょっと、番長お役に立てないようだ。

 それと、予備校ってのはフランスではあまりお目にかからねえ。一応存在はしていて、最大手はアカドミアって名前で108校があるそうだが、まあ日本の大手に比べりゃこぢんまりとしたもんよ。英会話教室のポスターならそこかしこで見るけどな。そうそう、家庭教師ってのもあるが、こっちも細々とやってる感じだな。日本みたいな受験産業ってのは、フランスにはないと言っても言い過ぎじゃねえだろう。
 このへんはやっぱり、どの大学に入っても差がないってのが影響してるんだろうな。なんせバカロレアの合格率ってのは、まあ年によって違うんだが、おおむね80%程度。つまり、5人に4人は受かるわけだ。だとすれば、塾だ家庭教師だに高い金をつぎ込む必要はないよな。加えて言えば、あんな出題をされちまっては、小手先の受験テクニックを詰め込んでも通用しねえって部分もあるだろう。

 それから、後段の「職業訓練系か学業系かを決めなきゃいけない」という話。これもその通りで、そもそもバカロレアには、大学に進学する連中が受ける「普通バカロレア」のほかに、「技術バカロレア」「職業バカロレア」がある。それぞれ職種別に細かく分かれていて、試験には実技もプラスされる。パン屋だろうが事務員だろうが大工だろうが、バカロレアは受けなきゃならねえ。こちらは高校卒業証明、職業資格としての性格が強い。
 ただまあ、高校の時点で意思決定をすると言っても、日本とそう違いはしねえんじゃねえかな。たとえば日本の高校だって、工業高校や商業高校なんかに入れば、おのずと進路は狭まる。そういうもんなんだろうよ。逆にフランスでも、普通バカロレアを受ける大多数の生徒は、己の行く末を大学にいる間にゆっくり考えるわけだ。
 というわけでミントさん、おおよそのところはわかっていただけたかな?


 いや、まいったね。
 受験と言っても日本とフランスじゃ、ずいぶん違いがあるってこったな。
 ところで、今回は書かなかったが、フランスには大学とはまったく体系の異なる最高学府として、グランゼコールってのが存在する。それについてはまた別の機会ってことで!




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