2010.03.01 (Mon)
おとぼけマダムのとんちんかん問答 「地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本」 デュラン・れい子先輩
まいったね。
フランス本には、まいったね。
記事の新しいカテゴリを立ち上げたぜ。
その名も「フランス本書評」。フランス在住の諸先輩方がお書きになった本を、恐れ多くも番長が、独断と偏見でざっくりと評させていただこうじゃねえかという、身勝手極まりない企画なのよ。
普段から番長の物言いに多少の共感を覚えてくださる方であれば、何かの参考にはなるだろう。違和感しか感じないという方でも、なのに見に来てんのかいアンタも好きだねえ、番長の評価をひっくり返すという方法で役に立ててもらえるんじゃねえかな。
へへっ、実のところ番長も、アマゾンのアフィリエイトってのを一回やってみたかったってのもあるのよ。
この記事を通じてご紹介する本を買う人がいれば、チャリンチャリンの小銭が番長の懐に舞い込むって寸法らしい。
そのへん、あらかじめ断っておくぜ。
さて、今回とりあげさせていただくのは、デュラン・れい子先輩。
1976年にスウェーデン人と結婚なさってからオランダ、ブラジルなどでの生活を経て現在は南仏はプロヴァンスに住んでらっしゃるというマダムだ。
もともとは博報堂のコピーライターで、芸術家としても知られているという多彩な才能の持ち主。執筆活動なんてのは余芸なのよ、余芸。還暦を過ぎてからの出版なのにたちまちベストセラーになったというから凄いねえ。
今回番長が拝読したのは一作目の「一度も植民地になったことがない日本」と二作目の「地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本」。
まずは「地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本」の方から拝見するとしようか。
先輩は成田空港から東京都心に向かうリムジンバスの車内から超高層ビル群を眺め、こんな風に書く。
時差ボケの頭でリムジンに揺られながら、私はいつも思う。こんな高いビルを建てて、大地震がきたときのことを考えているのかしら? 確かに日本の建設技術はすぐれているだろう。しかし、「それが本当に試されたことはない、つまり保証はない」と考えるのがヨーロッパ人なのだ。
(p18)
なんだなんだ、ヨーロッパ礼賛か? と思いきや、そうじゃねえんだこのお方は。
直後、こう続く。
ところが日本にしばらくいると(だいたい1週間ぐらいのうちには)、そんなことはケロリと忘れる。
コンビニの本のコーナーで見つけた「大震災の際、どうやって自宅まで帰り着くか」という地図や、「大震災のときには、これだけは持って逃げてください」というサバイバル・キットなどを目にして、そのたびに毎回ただただ感心。「うん、日本の母も高齢だし、もし私が都心にいて大地震がきたら、母のところまで歩いて帰ることを考えておかなければいけないな」と思ったり、「このサバイバル・キットは、母のベッドの下にでも置いておいたほうがいい」とかは考える。
しかし数分後にはケロリと忘れ、地下何十メートルという地下鉄に乗って初めて気づく。
「ああそうだ、今ここで大地震がきたら、私はたぶん地上には出られないだろうな」
そうなると緊急避難地図やサバイバル・キットがまたまた目に浮かぶが、2~3日のうちにはケロリと忘れてしまう。確かに夫の言うように、日本人は超楽天的な国民性なのかもしれない。私も含めて「自分だけは助かるかもしれない」と思っているのかも。
(p19-20)
いや先輩、そんなのアンタだけだよ!
どうだい、この予想外の展開。
日本の法律は耐震基準が非常に厳しく、超高層ビルも大震災に耐えられるように建設されているから大丈夫だろう、と、日本人は思ってるんだぜ。
実際、阪神大震災では高層ビルや鉄筋コンクリートのマンションにはほとんど被害がなく、死者の8割に当たる5000人は木造家屋の下敷きになったっていうからな。
もちろん、耐震強度偽装事件(姉歯事件)の経験を考えれば完全に安心とは言えないけど、そうした問題を教訓に国土交通省は建築基準法を改正し、建築業界はそれに応じて、ともかく、そういう科学的な根拠があるから信頼を置いてるの。超楽天的でケロリと忘れてしまうからじゃないの。ね。
このあと、れい子先輩の議論は、自然を克服するのがヨーロッパの発想、自然と共存するのが日本の発想、という方向でなぜだか落ち着く。
地震に対して超高層ビルを建てることの何が自然と共存する発想なのか、良くも悪くも日本が世界に冠たる土建国家であることをご存じないのか、ともかく話がトンチンカン。ひとりよがりの一人相撲としか言いようがねえ。
表題の部分からしてこの調子だから、後は推して知るべし。
とにかく、そこらへんにいるフツーのおばさまがティータイムかなんかにくっちゃべったことが、そのまま活字になってるという感じなんだな。
しかし、こいつはおしゃべりじゃねえ、書籍だろ。自分の言ったことに根拠があるのかどうか、ちったあ調べてもらうわけにはいかなかったかな。
そのくせ、ひとこと意見を言いますよ、物事をぶったぎりますよ、みたいな雰囲気を出すからタチが悪いぜ。
地震がくるといいながら高層ビルを建てる日本 (講談社プラスアルファ新書)
(2008/05)
デュラン れい子
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著者のデュラン・れい子おばさまのひとりよがりなおしゃべりを聞かされる感覚。そういう介護ボランティアだったとしてもしんどいのに、まして金を払って読む人がいるなんてな。話に含蓄があるわけでも、着眼点が斬新なわけでもないのにベストセラーになったという、奇跡みたいな本。
ちなみに「一度も植民地になったことがない日本」の方は、
(れい子先輩のスウェーデン人の夫曰く)「日本は運がいい。いや、運がいいのではなく頭がよかったのだろうな。だって織田信長のころ宣教師が来日したときや、徳川時代の終わりに西欧の国々が日本に開国をせまったときも、植民地になる危機があったわけだろ?」
ハッとした。そういう考え方を日本の学校の歴史の時間に習った覚えがなかったからだ。たぶん、今の日本の中学生、高校生も習っていないだろう。幕末の日本人の中で、アフリカや南米と同じように日本が植民地になるという恐怖を抱いた人が、はたしていたのだろうか。
(p91-92)
ノックしてもしもぉーし!
坂本龍馬、知らないんですかぁ!
司馬遼太郎の作品、一冊くらい読んだことありませんかぁ!
どうして今の日本の中高生が、ご自身とおんなじだと決めつけちゃうんですかぁ!
みんながみんなボンヤリしてるわけじゃないんですよぉ~ぉっとくらあ。
とまあ、一事が万事、こんな感じでね。
全般的には、日本ってこんなにヨーロッパでも褒められてるのよ、ヨーロッパに比べてもこんなに凄いのよ、といったトーン。
で、こんなところはヨーロッパを見習ったら、ってこともちょこっと書いてある。もっとも、お年寄りには席を譲れとか、そんな程度なのよ。刻んだ年輪の割には、話の底が浅いぜ!

(ウェブサイト「デュラン・れい子 応援団」より)
でも、なんか憎めないんだよねこの人。
天然ボケと言ったら失礼かな。理屈は通ってないが、余計なカドも立ってないのよ。
理屈が取ってない上にカドが立ちまくってるマークス寿子みたいなのに比べると、ずいぶん品がいいというか。
先輩に対してずいぶんな口の利き方だとは思うが、育ちの良さを感じさせるな。
とは言え、まあ総じて言って、外国に1年くらい住んだ日本人留学生でも、もうちょっと気の利いたことを言うんじゃねえか、というレベルだな。
一度も植民地になったことがない日本 (講談社+α新書)
(2007/07/20)
デュラン れい子
商品詳細を見る
日本人だからと言って日本を語れる、語っていいってわけじゃあないんだな、という勉強にはなったぜ。しかし、そんなことのために貴重なカネや時間を費やさなくってもいいわな。
いや、まいったね。
本をプッシュして小銭ザックザクてなつもりだったんだが、この方の本はカネを出して買うほどのもんじゃねえとしか番長には言いようがないぜ。
やれやれ、こいつはアテがはずれたな!

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もんこ |
2010.03.01(月) 17:02 | URL |
【コメント編集】
フランス本はまあ枚挙にいとまがねえのよ。もちろんいい本もあるんだが、そうでないのが多すぎるからな。とは言え、中村先輩や雨宮先輩の本は、特に番長から言うこともないんだよな。単なるタレント本で。そこいくとこのデュランれい子先輩なんてのはツッコミどころ満載で、むしろありがたいぜ。共通して感じる問題点は、とにかく著者自身の知識の乏しさだな。包丁を握ったこともないオヤジに三枚おろしを頼むようなもんで、切り終わったものは無残な出来栄えよ。
フランス番長 |
2010.03.02(火) 00:29 | URL |
【コメント編集】
以前人から譲り受けた古本で、北米で学生生活を過ごし、現在スイス住まいの独身マダム(ご本人の祖父は、暗殺された政治家)のエッセイを読んだ事がありますが、日本の悪口ばかりで驚きました。って言うか、もうあなた日本に住んでないじゃん、嫌いな国を逃げれて良かったね、ほいで何が問題なの?ってシバいてみたかったです。おまけに、いくら彼女一人が遠い異国でわあわあわめいても解決しないような、日本の深い伝統と文化に根付いた事に関しての悪口なので、日本はどうせ何も変わらない。本気で変えたいのならテメエが帰国して政治家になれやゴラッて思いました。自分の御祖父さんのように、暗殺されたくないのかもしれませんが。
くらら |
2010.03.02(火) 05:43 | URL |
【コメント編集】
日本に対して建設的なご批判をいただけるんならぜひとも拝聴したいんだが、この手合いはちょっとごめん蒙りたいぜ。しかしだよ、こういった方々のご本が売れている、ベストセラーになっているということはだ、どちらかと言えば番長のセンスがおかしいってことだよな。いや、まいったね。この調子じゃ、番長の懐に小銭が舞い込む日は遠いぜ!
フランス番長 |
2010.03.03(水) 00:43 | URL |
【コメント編集】
こりゃ駄目ですね。。
旦那がフランス人でもなく、本人がフランスで教育を受けたわけでもなく、ただ単に富裕層の引退避寒でフランスとも言えない南仏に住んでフランスを知ったような口を聞いてもらいたくないですね。
是非手厳しいパリやペリグーあたりの南西地方に住んでもらいたいもんです。。
旦那がフランス人でもなく、本人がフランスで教育を受けたわけでもなく、ただ単に富裕層の引退避寒でフランスとも言えない南仏に住んでフランスを知ったような口を聞いてもらいたくないですね。
是非手厳しいパリやペリグーあたりの南西地方に住んでもらいたいもんです。。
ビビり~まんさん、押忍! まあしかし、こうした御仁のお書きになった本が売れてるわけだからな。日本人ってのはM気質が強いのか、こういうオバサマがたにたしなめられたいって日ごろから思ってるんじゃないのかねえ。どうにも番長には理解しがたいぜ!
フランス番長 |
2010.05.04(火) 22:48 | URL |
【コメント編集】
番長、押忍!
デュラン先輩(「ビバヒル」みたいだな)の本は、買うほどのことはないにしても、吉村先輩とちがい、あまりムカつかねぇな。
育ちがいいからか、芸術家だからか、番長の指摘どおり、カドがたってない。
だからダメだよ日本人的な要素がすくないんだな。
暇つぶしに毒にも薬にもならねぇ軽い読み物が読みたいときなんかにゃ、デュラン先輩はむしろ悪くねぇんじゃねぇかと思うぜ。
デュラン先輩(「ビバヒル」みたいだな)の本は、買うほどのことはないにしても、吉村先輩とちがい、あまりムカつかねぇな。
育ちがいいからか、芸術家だからか、番長の指摘どおり、カドがたってない。
だからダメだよ日本人的な要素がすくないんだな。
暇つぶしに毒にも薬にもならねぇ軽い読み物が読みたいときなんかにゃ、デュラン先輩はむしろ悪くねぇんじゃねぇかと思うぜ。
フラン女番 |
2010.09.07(火) 22:34 | URL |
【コメント編集】
確かにその通り、いつもいつも難しい本を読む気にゃなれねえし、ちょいと話のタネにってくらいならいいのかもしれねえ。ただ、ホントにそのレベルにしかならねえってことは念頭に置いておいた方がいいだろうな。金を払ってこの人の本を読んでも、ああためになった勉強になったって感じはひとっつも得られねえんだ、残念ながら。ま、青筋立てて怒るほどの本じゃねえってのは確かだな。
フランス番長 |
2010.09.13(月) 12:30 | URL |
【コメント編集】
マークス寿子を読んでじんましんが出た者です。
確かにマークス女史と比較すると全然丸みのある文章ですよね。かわいい。
マークス寿子の方は何が言いたいのかも全く解せない文章垂れ流しな上に何かこう、人をいらつかせる天性の才能みたいなのを感じ得ずにはいられません…
ところでフランスにも有害図書廃棄BOXみたいなのってあるんですか?
確かにマークス女史と比較すると全然丸みのある文章ですよね。かわいい。
マークス寿子の方は何が言いたいのかも全く解せない文章垂れ流しな上に何かこう、人をいらつかせる天性の才能みたいなのを感じ得ずにはいられません…
ところでフランスにも有害図書廃棄BOXみたいなのってあるんですか?
nuss |
2010.10.18(月) 04:56 | URL |
【コメント編集】
nussさん、押忍! いや、番長はその「有害図書廃棄BOX」ってのは見たことねえなあ。犬のフンを袋に入れて突っ込むボックスだったらあちこちで見かけたけどな。誰も使ってねえけどよ。ご指摘の廃棄ボックス、日本のもので番長の頭に思い浮かぶのは、エロ本ビニ本の類をぶっ込むことになってる箱だが、それのことかい? だとすりゃねえと思うぜ。もっとも、その手の場所に番長がアクセスしてねえだけかもしれねえが。
フランス番長 |
2010.10.19(火) 10:41 | URL |
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あいかわらずぶっちぎり面白い!対SNCF死闘の舞台がおらが町だったもんでびっくらこいた、オーベルニュのもんこです!
私はフラ語を勉強したのも第三国、フランスは「ウェルキンゲトリクスのガリア」くらいしか先入観がないままやってきたので、いわゆるパリ症候群でガッカリ、は全然ありませんでした。でも今の視点で日本の書籍市場をみると、いやあ多いんですねえ、「フランス本」!イメージの作り出した、一種の表象文化といってもよろしいような!!
まだ多くを読んでないのでおしなべて言うことはできないのですが、フランス本って、著者の側にいるフランス人のいうことを、それが無責任なことでも何でも、検証もせずそのまま文章にしてしまう点が多い気がして、どうも気になります。茶のみ討論ではべつに構わなくても、もう少し出典や参考文献をギチギチ気にしてものを書いてもらいたいと思うのは、史学畑出身の私だけでしょうか…。