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2010.05.06 (Thu)

止められねえぜハヤリ言葉 移民国家フランス(4)

 まいったね。
 移民の影響には、まいったね。


 フランスでは移民、とりわけアラブ系の移民が蔑視されている。蔑視とまではいかなくても軽視されている。さもなきゃ、臭い物にはフタとばかりに無視されているぜ。
 都市の郊外には移民の住むゲットーが散在し、人々は失業からの貧困にあえぎ、非行や犯罪の温床となってる。その移民をフランスへと連れてきて、ゲットーに押し込めたのはフランス政府なんだがな。
 ってな話はこれまでに書いたとおりだ。


 さて、そんな移民社会にも、独自の文化があり、感性がある。
 実のところ、今のフランス人の若い世代の間では、移民にルーツを持つか否かにかかわらず、この移民的感性がずいぶんと広まってる様子なんだな。

 たとえば、キフという言葉があって、「kif」と綴る。「kiffer」(キフェ)という動詞を変化させて使われる。好き、って意味だ。人に対してもモノに対しても使う。標準的なフランス語で言えば「aimer」(エメ)だな。
 これ、若者を中心に、フランスの日常ではごく当たり前に聞かれる言葉だ。

 語源はアラビア語。なんと、ハシシを表す言葉らしい。
 ハシシってのは要するに大麻のことだ。大麻ってのはマリファナのことだが、乾燥させた大麻をマリファナと呼ぶのに対し、樹液を圧縮して樹脂にしたものをハシシって呼ぶんだな。
 どうだい、いかにもゲットーの言葉って感じだろ。好きって意味の言葉に大麻を当てるなんてな。実際この言葉、出自は不明ながら、どうも移民の間から広がったらしい。


 ほかでは、たとえば「beur」という単語がある。モロッコ・チュニジア・アルジェリアのマグレブ3国から来た移民の2世を指す、すごく有名なスラングだ。ブールと読む。
 これは、「arabe」(アラブ)をひっくり返した言葉だ。
 なに、それならebaraじゃないのかって? 焼肉のタレかよ。
 いや、音節ごとにひっくり返すんだ。
 すなわち、ア・ラ・ブじゃなくてブ・ラ・ア、と。さらにそれが短縮されて、ブの音と、ラの音の子音rだけが残ってブールになったってわけだな。
 ゲットーについて書いた回でちょびっと触れた、「シテ」のことを「テシ」(テス)という言い方も同じことよ。

 こういう言葉をベルランと呼ぶ。verlanと綴るんだが、この言葉自体が逆さ言葉で、裏側という意味の単語「envers」を「ver」「en」とひっくり返したものだ。
 日本でも一昔前にギョーカイ用語みたいに言って、最近でも芸人の夙川アトムがネタにしてちょっとはやったじゃねえか。ギロッポンでチャンネーとシースー食ってドーン、みたいな。あの感じよ。
 ベルランはここ数年フランスの若者の間で流行しているようで、よく耳にするようになった。最近ではコメディアンなんかにも使うのがいる。


 もっとも、あんまりマネはしねえ方がいいだろう。このベルラン、相当に蓮っ葉な印象を与えるしゃべり方だ。日本で言えば、ヤンキーの言葉のようだって言うのかね。人前でしゃべっていい印象を持たれることはまずないだろう。
 というのも、ベルランを多用するしゃべり方ってのは、やっぱりゲットーを想起させるからだ。ゲットーの若者たちが使っている言葉が、このベルランなんだな。
 想像つくだろ、「良識的な」フランス人の前で、ベルランを使ったときにどういう反応が起きるかってのは。

 逆さ言葉という遊び方自体は、おそらく太古の昔からある。日本にもあるくらいだからな。番長も子供のころ、友だちの名前を逆さに読んではネタにしてたもんよ。友だちに「近藤タツオくん」ってのがいてさ、逆さから読むと「オツタ・ウドンコ」→「落ちた、うどん粉!」 やーいやーいワッハッハワッハッハ、なんつってな、子どもらしく盛り上がってたもんだぜ。

 しかし、ここ最近のフランスでのハヤリはやっぱり、移民2世や3世の若者たちから来ているってのが定説だ。
 フランスにはゲットー出身のヒップホップ・ミュージシャンがたくさんいるんだが、彼らが90年代くらいから歌詞の中で頻繁に使ってんのよ、ベルランを。
 それがカッコイイってんで広まったんじゃないか、と言われているぜ。


 いや、まいったね。
 存在にフタをしても、感性にフタをすることはできねえってことだな。




bancho200.gif



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テーマ : フランス ジャンル : 海外情報

11:00  |  俺節フランス  |  トラックバック(0)  |  コメント(22)  |  編集  |  上へ↑

*Comment

大麻の呼び名のスラングが流行してるってことは、大麻自体も相当広がってるんでしょうね…
でもまあ、逆さ言葉がフランスにもあるなんて驚きですね。
あ |  2010.05.06(木) 13:38 |  URL |  【コメント編集】

■番長、押忍

フランスの若者の逆さ言葉っておもしろいけど
理解できないので外国人(わたし)には困ったものです。。。

「kif」 はよく聞きますが、『ハシシ』 からきているなんて知りませんでした!

言語は常にその時代の国の 『今』 に反映されるのですよね。

そういえば、日本の業界用語は一時流行していたのに
なくなってしまいましたね~、高齢化のせいでしょうか 笑
Yoco |  2010.05.06(木) 16:06 |  URL |  【コメント編集】

■あ さん、押忍!

 大麻自体はフランスでは、バンリューに行かずともかなりポピュラーだぜ。どこでも手に入るとは言わねえが、日本に比べると相当緩い感じはする。ちなみに大麻は「カナビス」、タバコのように紙巻きにしたのを「ジョワン」って言うぜ。ジョワンって要するにジョイントのフランス読みだな。このへんは英語と語彙が共通しているようだ。
フランス番長 |  2010.05.06(木) 17:56 |  URL |  【コメント編集】

■Re: 番長、押忍

 Yocoさん、押忍! 番長も逆さ言葉の聞き取りの方はてんでダメだ。元祖フランス語の方だって怪しいんだからな、無理もないんだが。それでも「ズィーヴァ」とか言ってるのを判別できるとうれしくなっちまうぜ。ただまあ、はっきり言ってバカっぽくもあるよな。そこがまたいいんだが。日本のギョーカイ用語がバカっぽいのと一緒かもな。
フランス番長 |  2010.05.06(木) 17:58 |  URL |  【コメント編集】

■感性

番長、こんにちは!
「感性にフタをすることはできねえ」というのはいいですね。
感性はテリビシサン、またはノシモエ?なんちゃって。
アメリカでも黒人が長いこと差別され、抑圧されながら、音楽やスポーツや文学などいろいろな分野でエネルギーを開放し、文化の一大潮流を作ってきましたけれど、beurたちにもそれを期待したいです。というかやっぱりそういう流れはありますよね。むしろ日本の若者のほうが保守・内向き傾向が非常に強くてヤバイかもしれません。無意識のうちに大人たちが導いた結果でもあると思いますが。
triolet |  2010.05.06(木) 20:03 |  URL |  【コメント編集】

番長、ヤスでヤス。

>番長も子供のころ、友だちの名前を逆さに読んではネタにしてたもんよ。友だちに「近藤タツオくん」ってのがいてさ、逆さから読むと「オツタ・ウドンコ」→「落ちた、うどん粉!」>やーいやーいワッハッハワッハッハ、なんつってな、子どもらしく盛り上がってたもんだぜ。


アッシんとこも方言と被る名前は冷やかされてたでヤス。
「転ぶ」を意味する「おっける」てのが有るんでヤスが、そのせいで「桶田英次」ってぇ友人は「転んだ英次」とか「桶田英次がおっけったー♪」とか、からかったモンでヤス。

移民も困ったモンでヤスね…
では番長、コレで失礼するでヤス。
ヤス |  2010.05.07(金) 00:25 |  URL |  【コメント編集】

番長の「移民国家フランス」シリーズ、毎回頷く事で一杯です。
今回の言葉の件に関して、一番残念に思うのは、
ゲットーと呼ばれる地域に住む若者達が使うのならまだしも、
その背景を全く知らずに使う若者達の事です。
「響きがカッコイイから」とか、「みんなが使っているからつい」とか、
そんなのが理由でしょうが、若さゆえ、許されるのでしょう。
でもわたし達外国人が使うのは全く別の話。
「フランス人の友達が使っているから」なんて、言い訳になりません。
英語でも日本語でも全く同じ事が言えます。ちゃんと基礎から勉強し、
その上で俗語を使うのならいいのですが、更にその背景を知った上で、
使う時と場所と人を選ぶべき、と、わたしは思います。

PS:
モンパルナスのNAGOYAのお店、早速サイトを見てみました・・・爆笑!
でもわたしが見たのは、コレじゃないんですよ。今度確認してきますね。
えみり |  2010.05.07(金) 03:44 |  URL |  【コメント編集】

■さっぱり分からん

マー坊です。
beurという単語が「arabe」(アラブ)をひっくり返した言葉だなんて知らなかったです。番長の紹介している単語のほとんどは初めて聞くものばかり。「焼肉のタレ」は笑っちゃいました。
マー坊 |  2010.05.07(金) 04:20 |  URL |  【コメント編集】

■キョーベン、リナ・スマ!

「移民」関連の記事、とても興味深く読ませていただいています。
他にはない内容で、おそろしくメータになります。ありがとうございます! で、ぶしつけで申し訳ないんですが、教えていただきたいことが。

文化的クレオール性(いい意味で)、なんていうと大げさですが、
やっぱり文化はまじりあってこそ、という面もあると思っています。
で、そういうことを調べたりしています。
たとえば、モントリオールにおけるハイチ系移民の音楽とか。
で、いわゆるハイ・カルチャーではなく、移民的な感性が、
パリという都会や、
「現代」というものと出会って事例を具体的に見聞きしたいとすれば、
どういうふうに探せばいいんでしょうか?
(日本にいる場合でも、あるいはフランスに行った場合でも。)
なんだかマイアイな質問ですみませんが、
ヒントをお教えいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
gosse |  2010.05.07(金) 21:32 |  URL |  【コメント編集】

■Re: 感性

 trioletさん、押忍! 説教オヤジになるつもりはねえが、ハングリーさや反骨精神なんてのは勉強して教わるものじゃねえからな。置かれた環境の中で、逆境を跳ね返すっていう気概というのは、今の日本じゃ育ちにくいのかもな。もっとも、いつだったか「雑草魂」なんて言葉が流行語大賞を取ったこともあったように記憶するけどな、そう遠くない昔に。番長は一方的にアラブ人の肩を持つ気はねえが、フランス的中華思想の押し付けには大いに不満があるんで、是非頑張ってもらいたいと思ってるぜ。だが、やはり暴力はよろしくねえ。文化の方でお願いしたいな。
フランス番長 |  2010.05.07(金) 22:32 |  URL |  【コメント編集】

■ヤスさん、押忍!

 ハッハッハ、まあ子どもの遊びなんてのは他愛ないもんだよな。しかし、名前を逆さから読むって遊びはしなかったかい? おや、こいつは番長の郷里だけの話なんだろうかな。ま、んなこたあどっちでもいいけどよ! おっけるってのはいい方言だね、語感がいいや。
フランス番長 |  2010.05.07(金) 22:33 |  URL |  【コメント編集】

■えみりさん、押忍!

 うむ、まったく同感だぜ。移民2世や3世にシンパシーを感じてるってんならまだしも、流行の上っ面だけをなぞるってのは勘弁してもらいてえもんだな。ただ番長、一方で、本当にカッコイイものイカスものってのは、理屈を超えて広がってくれるんじゃねえかという期待も持ってんのよ。そういう意味じゃ、ベルランも「キフ」みてえな言葉も、どんどん広がったらいいのよ。で、ところでこの言葉はなんなんだって考えるきっかけになってくれりゃあな。ところでそうかい、えみりさんのおっしゃるレストラン「ナゴヤ」ってのはモンパルナスのじゃなかったかい。なかなか手広くやってくれるじゃねえか、名古屋も!
フランス番長 |  2010.05.07(金) 22:34 |  URL |  【コメント編集】

■Re: さっぱり分からん

 マー坊さん、押忍! ベルランってのは相当な種類があるようだぜ。「食べる」のマンジェがジェマンとか、「彼氏」のメックがクメとか。もっとお下劣な言葉も多いがな。もともとそうやって、知らない大人たちを煙に巻くための言葉だからな。ご存じないのも当然かもよ。
フランス番長 |  2010.05.07(金) 22:34 |  URL |  【コメント編集】

■Re: キョーベン、リナ・スマ!

 gosseさん、押忍! こちらのお名前も俗語だねえ。いや、既に標準フランス語なのか? サル・ゴス!となりゃ明確にスラングだろうがな。さて、ご質問の件だが。こいつはかなりハイブロウだねえ。番長はゲージツ方面にはてんで疎いんのよ、申し訳ねえんだが。ただ、移民的な感性をストレートに表現しているものと言えば、やはりラップ、ラップ・フランセだと思うぜ。実はこの話、次回の記事で触れようと思ってたとこなのよ。日本時間の明日8日午前11時更新予定の記事でガッチリと書かせてもらうつもりなんで、参考になれば幸いだぜ。その他ってことになると、ちと厳しいような気もするぜ。植民地時代のアルジェリアでコロンと現地民の間に混血が進まなかったように、現代のフランスにおいてもゲットーと白人フランス社会の間に横たわる壁ってのはなかなか高いようだからな。
フランス番長 |  2010.05.07(金) 22:41 |  URL |  【コメント編集】

■yahooより

「フランス人は文句が多い」、9割が自ら同意=調査
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100507-00000724-reu-int
k |  2010.05.08(土) 02:38 |  URL |  【コメント編集】

番長♂(あれこんな変換が!)

まいったね。アルジェリア人。妻4人(妻1人、愛人3人)子供手当12人分。ナントのハラルの肉屋。日本の550人分申請したの韓国人には負けるけど、この妻たちとちゃんと普通に長屋に住まわせて重婚生活送ってたっていうからすごい。
http://www.youtube.com/watch?v=NKd_0fl95A0

シテじゃなくて、ちゃんと長屋にすまわせてる甲斐性夫。色男だなぁ。。
爛漫子 |  2010.05.08(土) 05:00 |  URL |  【コメント編集】

■どうしようもなくお手上げです。

メックっていう言葉を使われてもドキッとくるのに、クメですか。もう完全に完敗です。 それにしても、番町はいろんなことご存知ですね。「コキュ」からの延長線でベトナム語にまで行ったときに出てきたいくつかのベトナム語の単語なんかにはちょっとびっくりしました。ハンパじゃなかったです。(ちょっとかじったことがあるので) いったいどこでどうやってなんて思ってしまいました。ベトナムにも行ってらしたんですよね。そうじゃなくちゃ・・・・???!!!****###%%% これからもいろいろ教えてください。(話が飛んじゃいました、スイマセン)
マー坊 |  2010.05.08(土) 15:04 |  URL |  【コメント編集】

■Re: yahooより

 kさん、押忍! このニュースのミソは、自分自身も口うるさいと認めるフランス人は37%にとどまった、ってとこだな。他のフランス人は確かにうるさいけど俺/アタシだけは違うぜ、ってかい。いかにもフランス人らしいな!
フランス番長 |  2010.05.08(土) 22:05 |  URL |  【コメント編集】

■爛漫子さん、押忍!

 確かに大変な甲斐性だねえ。しかし、フランスじゃあ蛇蝎の如く嫌われてる一夫多妻制度だが、そんなに悪いもんなのかねえ。離婚と再婚を繰り返すフランスの典型的なカップル像に比べりゃ、子どもに対する影響って意味じゃマシなんじゃねえかって気もするがな。捕鯨や捕イルカと同様、結局は理屈じゃなくて、気にくわねえって感情がデカイんじゃないのかねえ。
フランス番長 |  2010.05.08(土) 22:08 |  URL |  【コメント編集】

■Re: どうしようもなくお手上げです。

 マー坊さん、押忍! ハッハッハ、クメったってヒロシでもアキラでもねえんだぜ。ちなみにコキュの一件だが、番長、ベトナムへ赴いたことはあるが、ベトナム語については全然知らねえよ。ご協力をいただいたのは、ウェブ上を通じて探したベトナム語に通じた日本人のみなさん。ぶしつけにもいきなりメールを送りつけて、ご意見を伺ったってわけよ。ことほどさように、番長の知識なんてのはみな付け焼き刃。おかしなところは容赦なく突っ込みをいれてもらいたいぜ!
フランス番長 |  2010.05.08(土) 22:11 |  URL |  【コメント編集】

その言葉を生み出す文化に磨きがかかれば無問題。ありんす言葉なども特殊な空間に生まれた特殊な言葉、本当に洗練されたものになるかどうかが大切なのでは。
rqrq |  2010.05.10(月) 00:28 |  URL |  【コメント編集】

■rqrqさん、押忍!

 そうだねえ、言葉は生き物。番長としても、ベルランや他のハヤリ言葉がどう定着し、あるいは廃れていくのか。とっくりと見届けさせてもらいてえと思うぜ。
フランス番長 |  2010.05.11(火) 00:18 |  URL |  【コメント編集】

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