2010.06.01 (Tue)
若者は新聞タダ! モン・ジュルナル・オフェル
まいったね。
無料の新聞には、まいったね。
いや、無料新聞ったって、駅なんかで配ってるアレじゃあねえ。確かにあの手の、いわゆる無料紙も「ヴァン・ミニュット」、「ディレクト・プリュス」系列、「メトロ」といくつもあってしのぎを削ってるんだが。そうじゃあなくって有料の新聞をタダで配るって話だ。
フランスの代表的な新聞は、おおよそ1部1ユーロ以上する。ル・モンドで1.4ユーロ、フィガロやリベラシオンは1.3ユーロだ。週末版は分厚くて3倍くらいの値段がする。ま、おおよそ日本で駅売りしている新聞と同じか、ちょっと高いくらいだと考えてもらえりゃいいだろう。
それをタダでくれるってのは、どういう話なのか。
実はこれ、2009年10月に導入されたサルコジの新施策でね。その名も「モン・ジュルナル・オフェル」という。直訳すれば「私の提供された新聞」ってとこかな。「ボクの新聞タダ!」っていうか。
18歳から24歳までの若者限定で、希望者20万人限定で好きな日刊紙を1年間配達するサービスだ。選べる新聞は59種類あって、ル・モンドみたいな全国紙から各地の地方紙、スポーツ紙の「レキップ」も含む。ただし、フランスは日本みたいに宅配制度が整備されてないんで、1週間分まとめてドカッと送られるという仕組みよ。
ともあれ、タダでもらえるんだから応募しない手はねえ。希望者はすぐさま定員に達したそうだ。もっとも、これは向こう3年間続けられることが決まってるんで、今年間に合わなくてもご安心なさいよ、ってことらしいぜ。
この施策のために投入された税金は年500万ユーロ。今はギリシャ経済危機の影響でユーロが下がっているが、それでも円に換算して6億円ほどになる。結構な金額だよな。
なんでこんな施策が導入されたのか。新聞各社の経営が苦しいからだ。
お題目としては「若者に新聞を読む習慣を身につけさせ、文化水準を引き揚げる」ってことが主眼とされている。
新聞社側にとってみれば、1年タダで新聞を取って、新聞を読むことがクセになれば、その後は金を払ってでも新聞を読むだろう、そういう人間もいくらかは出てくるだろうという計算があるわけだ。
フランスにいまある新聞はほとんどが赤字で、黒字を出している会社はごくわずかしかないとされている。インターネットの発達とともに部数は減る一方。もともとフランスの新聞ってのはあまり部数が多くなく、ル・モンドやフィガロでも30万部ちょっとってところだ。これは新聞の危機だってんで、サルコジが救いの手を差し伸べた格好だな。新聞社側も諸手をあげて歓迎した。
と聞くと、前回の記事を読んで下さった方の中には、鼻白む人も多かろう。やっぱりそういうことかと。またぞろサルコジとメディアの癒着かと。
サルコジはメディアに対する影響力を強めたいと、24時間365日考えている男だ。一方の新聞社側は経営難、ない袖は振れないとばかりに提案に飛びついた。こんなことじゃ健全なジャーナリズムは期待できない、って話だよな。
だが、どうもそれだけじゃねえのよ。
日本のメディアは政府の介入に対して、ほとんど脊髄反射なみに拒否反応を示す。というのも、すべての新聞が第二次大戦当時、「大本営報道」に走ったからだ。アンタ方もよくご存じだろう。大日本帝国軍に都合の良い記事ばっかりを載せて市民に事実を知らせず、軍国主義の片棒を担いだ戦犯、それが新聞だったわけだ。各社は戦後、己の犯した罪を反省。現在に至ってるんで、政府に頼ることを原則としては嫌うんだな。
ま、内実がどうなってるのかはともかく、少なくともタテマエ的にはそうだ。
他方、フランス。第二次大戦時には日本と同様、各紙がナチスに荷担したんだが。建て直しを新聞社自身に任せた戦後の日本政府、あるいはアメリカ政府とは発想が違うねえ。なんとフランス政府、当時250ほどあった新聞をすべて廃刊にし、発行していた新聞社を解体しちまった。
で、このとき新たに新聞をつくろうという人々を支援するため、輪転機なんかの設備や輸送・配達網の整備を政府が全面的に支援したんだな。その後も政府の新聞社に対する支援ってのは、色々な形で続いていたそうだ。
要するに、フランスの新聞各紙には、もともと政府からの救いの手を受け入れやすい素地があった、ってわけなのよ。
しかし、フランス政府のやったことってのは、「ナチスに従ってた新聞」を「戦後新しくできたフランス政府に従う新聞」にしただけで、本質的な変化を伴ってねえような気がするんだよな。
実際、今回の新聞救済策にしても、若者への新聞無料提供なんてのはほんの一角。ほかにも、新聞社の電子メディア部門への財政支援とか、新聞への政府広告の増加なんていう、もっと直接的な支援も含まれている。
その予算の総額、3年間で実に6億ユーロだそうだ。720億円!
もちろん政府は、各社の言論には絶対に介入しないとしているわけだが。新聞社の方で勝手に遠慮するのはアリなんだよなあ。サルコジのハラのぜい肉を勝手に修正した雑誌パリ・マッチみたいに。
いや、まいったね。
新聞各紙には、政府からの恩を仇で返すような報道を期待してえが。やっぱ望み薄かな。

無料の新聞には、まいったね。
いや、無料新聞ったって、駅なんかで配ってるアレじゃあねえ。確かにあの手の、いわゆる無料紙も「ヴァン・ミニュット」、「ディレクト・プリュス」系列、「メトロ」といくつもあってしのぎを削ってるんだが。そうじゃあなくって有料の新聞をタダで配るって話だ。
フランスの代表的な新聞は、おおよそ1部1ユーロ以上する。ル・モンドで1.4ユーロ、フィガロやリベラシオンは1.3ユーロだ。週末版は分厚くて3倍くらいの値段がする。ま、おおよそ日本で駅売りしている新聞と同じか、ちょっと高いくらいだと考えてもらえりゃいいだろう。
それをタダでくれるってのは、どういう話なのか。
実はこれ、2009年10月に導入されたサルコジの新施策でね。その名も「モン・ジュルナル・オフェル」という。直訳すれば「私の提供された新聞」ってとこかな。「ボクの新聞タダ!」っていうか。
18歳から24歳までの若者限定で、希望者20万人限定で好きな日刊紙を1年間配達するサービスだ。選べる新聞は59種類あって、ル・モンドみたいな全国紙から各地の地方紙、スポーツ紙の「レキップ」も含む。ただし、フランスは日本みたいに宅配制度が整備されてないんで、1週間分まとめてドカッと送られるという仕組みよ。
ともあれ、タダでもらえるんだから応募しない手はねえ。希望者はすぐさま定員に達したそうだ。もっとも、これは向こう3年間続けられることが決まってるんで、今年間に合わなくてもご安心なさいよ、ってことらしいぜ。
この施策のために投入された税金は年500万ユーロ。今はギリシャ経済危機の影響でユーロが下がっているが、それでも円に換算して6億円ほどになる。結構な金額だよな。
なんでこんな施策が導入されたのか。新聞各社の経営が苦しいからだ。
お題目としては「若者に新聞を読む習慣を身につけさせ、文化水準を引き揚げる」ってことが主眼とされている。
新聞社側にとってみれば、1年タダで新聞を取って、新聞を読むことがクセになれば、その後は金を払ってでも新聞を読むだろう、そういう人間もいくらかは出てくるだろうという計算があるわけだ。
フランスにいまある新聞はほとんどが赤字で、黒字を出している会社はごくわずかしかないとされている。インターネットの発達とともに部数は減る一方。もともとフランスの新聞ってのはあまり部数が多くなく、ル・モンドやフィガロでも30万部ちょっとってところだ。これは新聞の危機だってんで、サルコジが救いの手を差し伸べた格好だな。新聞社側も諸手をあげて歓迎した。
と聞くと、前回の記事を読んで下さった方の中には、鼻白む人も多かろう。やっぱりそういうことかと。またぞろサルコジとメディアの癒着かと。
サルコジはメディアに対する影響力を強めたいと、24時間365日考えている男だ。一方の新聞社側は経営難、ない袖は振れないとばかりに提案に飛びついた。こんなことじゃ健全なジャーナリズムは期待できない、って話だよな。
だが、どうもそれだけじゃねえのよ。
日本のメディアは政府の介入に対して、ほとんど脊髄反射なみに拒否反応を示す。というのも、すべての新聞が第二次大戦当時、「大本営報道」に走ったからだ。アンタ方もよくご存じだろう。大日本帝国軍に都合の良い記事ばっかりを載せて市民に事実を知らせず、軍国主義の片棒を担いだ戦犯、それが新聞だったわけだ。各社は戦後、己の犯した罪を反省。現在に至ってるんで、政府に頼ることを原則としては嫌うんだな。
ま、内実がどうなってるのかはともかく、少なくともタテマエ的にはそうだ。
他方、フランス。第二次大戦時には日本と同様、各紙がナチスに荷担したんだが。建て直しを新聞社自身に任せた戦後の日本政府、あるいはアメリカ政府とは発想が違うねえ。なんとフランス政府、当時250ほどあった新聞をすべて廃刊にし、発行していた新聞社を解体しちまった。
で、このとき新たに新聞をつくろうという人々を支援するため、輪転機なんかの設備や輸送・配達網の整備を政府が全面的に支援したんだな。その後も政府の新聞社に対する支援ってのは、色々な形で続いていたそうだ。
要するに、フランスの新聞各紙には、もともと政府からの救いの手を受け入れやすい素地があった、ってわけなのよ。
しかし、フランス政府のやったことってのは、「ナチスに従ってた新聞」を「戦後新しくできたフランス政府に従う新聞」にしただけで、本質的な変化を伴ってねえような気がするんだよな。
実際、今回の新聞救済策にしても、若者への新聞無料提供なんてのはほんの一角。ほかにも、新聞社の電子メディア部門への財政支援とか、新聞への政府広告の増加なんていう、もっと直接的な支援も含まれている。
その予算の総額、3年間で実に6億ユーロだそうだ。720億円!
もちろん政府は、各社の言論には絶対に介入しないとしているわけだが。新聞社の方で勝手に遠慮するのはアリなんだよなあ。サルコジのハラのぜい肉を勝手に修正した雑誌パリ・マッチみたいに。
いや、まいったね。
新聞各紙には、政府からの恩を仇で返すような報道を期待してえが。やっぱ望み薄かな。

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番長、押忍でございます。
どこの国も知れば知るほど「にゃにぃっ(怒)」となる出来事が
本当にたくさんですねー。
メディアに関しては、向こうから一方的に流してくる情報に踊らされないよう、自分の情報処理能力を磨いていくことが必要ですね。つってもこれが難しんだけど。
ところでサルコの腹のぜい肉写真、見ました。
あれくらい、彼の年なら別にいんじゃないのと思いましたが~。
パリ・マッチはナニに気を回してんでしょう?と、クスリとさせていただきました(却って失礼なんじゃ…)。
どこの国も知れば知るほど「にゃにぃっ(怒)」となる出来事が
本当にたくさんですねー。
メディアに関しては、向こうから一方的に流してくる情報に踊らされないよう、自分の情報処理能力を磨いていくことが必要ですね。つってもこれが難しんだけど。
ところでサルコの腹のぜい肉写真、見ました。
あれくらい、彼の年なら別にいんじゃないのと思いましたが~。
パリ・マッチはナニに気を回してんでしょう?と、クスリとさせていただきました(却って失礼なんじゃ…)。
いやー、お勉強になりました。ジャーナリズムの独立性を保つのは大変なことなんですね。20年前ウエストフランス紙が4.5→5.0フラン(90円→100円)に値上げしたのを覚えていますが、それにしても新聞代が高い、いまや180円ですか。煙草代と同じでいくら値上げしても買うでしょうが、部数が伸びることはないでしょうね。
世の中の流れに逆行するのは、非常に難しいと思いますよ。
タダで配っても、ネットでは新聞記事がタダで読めますから…
フランスは経営規模が小さい新聞社が多そうですが、今後が少し不安になりますね。
タダで配っても、ネットでは新聞記事がタダで読めますから…
フランスは経営規模が小さい新聞社が多そうですが、今後が少し不安になりますね。
あ |
2010.06.03(木) 17:28 | URL |
【コメント編集】
どこも新聞は苦しいんですね。少し前にWSジャーナルが身売り先を探しているって話もありましたし、最近は朝日の昨年度40億の赤字が発表されてました。コストも作るものも組織も根本的に変化させないといけないのに、そういうことはなかなかできないんでしょうね。
それにしても財政的に苦しいからといって、政治権力と取引関係をもつのは保身であり、保身っていうのは、エゴイズムで臆病ってことだと思うんですけれどね。ジャーナリズムがそんなんでいいのかって疑問・批判に対しては、都合のいい言い訳の論理をこしらえるんでしょうねえ。彼らは。
それにしても財政的に苦しいからといって、政治権力と取引関係をもつのは保身であり、保身っていうのは、エゴイズムで臆病ってことだと思うんですけれどね。ジャーナリズムがそんなんでいいのかって疑問・批判に対しては、都合のいい言い訳の論理をこしらえるんでしょうねえ。彼らは。
triolet |
2010.06.03(木) 21:10 | URL |
【コメント編集】
涼一さん、押忍! いや、共和制も民主主義の一形態だとばっかり番長は思ってたんだが。むしろ民主主義の最たるもんだとな。番長は、国の号令で新聞を全部潰してしまえるような社会ってのはイヤだねえ。自主性に任せるのがスジってもんだと思うぜ。どんな新聞、どんな表現媒体にだって読者なり受け手ってのが存在してる限りは、社会にとって不必要ってことはあり得ねえんじゃねえか。どんなゴロツキ新聞だったとしても、それも残すのが言論の自由、表現の自由ってもんだと思うぜ。フランスの国是であるところの、な。
フランス番長 |
2010.06.05(土) 09:35 | URL |
【コメント編集】
フランスでは、マスコミは真実を伝えないって意識が根強く残っているようで、周りのフランス人を見てても報道に対する猜疑心が非常に強い感じを受けるね。たとえば新型インフルが流行したときも、「あれは政治の問題から目をそらすための謀略だと思う」だなんて真面目に言ってたからな。いや、そういう可能性が全然ないとは言わねえが、新型インフルは新型インフルでそりゃ一級のニュースだろうよ。ともかく、そういうフランス人の習性ってのも、伝統的に磨かれてきたものなのかもな。
フランス番長 |
2010.06.05(土) 09:38 | URL |
【コメント編集】
豊栄のぼるさん、押忍! 日本でも駅売りの新聞は150円に値上げしたようだが、それ以前からフランスの新聞は高いってわけだ。1.4ユーロとなるとバゲット2本買えちまうからなあ、こりゃとんだ高級品だよ。もっとも、フランスの新聞が高いのは、印刷や輸送のコストが高いかららしい。ほぼ独占状態で、労組が強いから賃金は記者より高いって話だぜ。大したもんだな。
フランス番長 |
2010.06.05(土) 09:42 | URL |
【コメント編集】
ジャーナリズム自体が廃れることはないだろうが、紙の新聞である必要は全然ないもんなあ。紙の新聞がなくなっていく過程の中で、健全なジャーナリズムがなくなっちまうとしたら残念だがな。
フランス番長 |
2010.06.05(土) 09:55 | URL |
【コメント編集】
日本でも特に地方紙で、政府のことになると舌鋒鋭い新聞が、地元のことになると県やら市やら地元政治家とガッチリ密着しちまってるもんだから、とたんに筆が甘くなるなんてことがよくあるよな。フランスの新聞の国際報道ってのは番長、面白いし充実してると思うのよ。アングロサクソンの視点に偏ってねえ国際報道って、事実上フランスにしかないような気がするんだな。一方で、肝心な国内のことに関しては筆が甘くないかい、とは思うねえ。政治と距離の近いジャーナリズムなんてのは絶対ダメ、だよなあ。
フランス番長 |
2010.06.05(土) 10:05 | URL |
【コメント編集】
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しかしだな、日本は廃刊にし、解体してもいいんじゃないかっていう新聞社はいくつもある。コピペ集と化して、安藤美姫ちゃんの中傷写真を世界選手権のたびに掲載する産経新聞は、日本に必要ないでしょう。こんなあくどいことをして、生き残ろうとする新聞社もいるのに、日本は報道の犯罪に対して何もできない。
それにひきかえ全新聞社を廃刊にするフランス政府は、すごい権力だなあ。
フランスも日本もどちらも一長一短だと思います。