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2010.06.11 (Fri)

週35時間労働制、その目的とは?

 まいったね。
 フランスの労働時間には、まいったね。


 ようアンタ、週に何時間働いてる?
 いやいや、総務省や厚労省に提出する数字じゃなくってよ。今日も終電までサービス残業だって? いやはや、そいつはホントにサンク・ヌフ・シス・トロワだぜ。
 午前10時から午後11時までの勤務を週5日続ければ、1日あたり1時間の休みを取ったとして、週60時間労働ということになる。こういう人は日本じゃ、まあザラにいるだろうな。最も恵まれた環境にいる人で、9時出社の6時退社、週40時間ってとこか。

 いやあホント、1週間が始まる月曜日ってのは憂鬱だよな。火曜日には「まだ週明けから2日しかたっていないのか」と呆然とし、週のまんなか水曜日あたりがいちばんツライ。もう半分以上は過ぎたと自分に言い聞かせて木曜日を何とかやっつけ、心も軽く金曜日の職場に向かうも、仕事をやり残して土曜日に休日出勤する。そして遅く起きた日曜日、NHK「のど自慢」の♪キンコンカーンの音を聞いては、もう休みが終わってしまう、今日も何もしていないと自己嫌悪にさいなまれる。ああ、日本人の一週間だねえ。
 この日曜日の「音」は、人によって「笑点」だったり「サザエさん」のエンディングテーマだったりと個人差があるけどな。


 さあそこで、フランスの労働時間だ。
 法の定めで週35時間となっている。そしてここが肝心なところなんだが、この法は驚くほどきちんと守られている。日本でも労働基準法で週の労働は40時間、1日あたり8時間までと決められちゃあいるんだが。残業やサービス残業で有名無実化してるよな。ところがフランス人は、きっちり35時間しか働かねえ。見事なもんよ。
 ちなみにフランスでは、日曜日に開いている商店というのはほとんどない。パリなんかのわずかな例外を除くと、かき入れ時だろうデパートやショッピングモールもすべて閉まっている。これも、法律で日曜日に働くことは禁止されているからだ。フランス人は法律遵守!なんだな。

 この週35時間の労働というのは、欧米の先進国でもとりわけ少ない。アメリカの法定労働時間は週40時間、ドイツは1日8時間、イギリスは残業も含めて週48時間までとなっている。
 この話をするとき、フランス人はどこか誇らしげだ。私たちは労働の苦役から逃れ、こんなにも人生を謳歌してるんだとばかりにな。
 実際、うらやましいぜ。それでも世界第5位のGDPを誇る経済大国だってんだからな。
 このフランスの労働時間の短さってのはつとに有名で、日本でも話題になることは少なからずあるようだ。日本人の働き方は非効率的だとか、いいかげん社畜は卒業しようじゃないか、とかな。


 ただ、往々にして誤解されてるんだが、この週35時間労働制ってのは、何も労働者が権利として獲得したってわけじゃあない。
 確かにフランスってのは労働者、労働組合の力が強い国だから、デモやらストやらを打って勝ち取ったんだと思われがちなんだが。実はこれ、失業者対策として2002年に導入された政策なんだよな。

 どうして労働時間の短縮が失業者対策になるのかって? 簡単なリクツよ。
 それまでフランスの法定労働時間ってのは週39時間だった。10人が働く職場なら、1週間で成し遂げられる仕事量は390時間分ということになる。これが週35時間になれば、390÷35=11.14…ということで、少なくとももう1人は働かないと同じ仕事量は達成できない計算だ。
 政府としちゃ、こうすりゃ企業はもっと人を雇うようになるだろう、と思ったんだろうな。

 結果どうなったか。当初のもくろみほど失業率は改善しなかったのよ。
 なぜか。企業は社員を増やさず、代わりに効率アップを労働者に求めたからだ。「それじゃあ今まで39時間でやってた仕事を35時間で終わらせてね」ってな。しわ寄せは労働者側にきた。でも、できねえもんはできねえよな。そのせいでフランス企業の生産力は落ちたと言われているぜ。
 この国際競争の時代に、企業としちゃ手をこまねいているわけにはいかねえ。どうしたかと言えば、もうフランスなんか面倒だからいいやってんで、東欧諸国などの賃金が安く労働条件もゆるい国に移転していった。フランス国内の産業が空洞化しちまったわけよ。
 大統領のサルコジはこの35時間労働制を諸悪の権化だと言わんばかりに叩いてるんだが、そういう理由があるわけだな。


 影響はそれだけじゃねえ。労働者の中でも中間管理職のような上の層と、単純労働者なんかの下の層で効果がくっきり分かれちまった。
 というのも、上の層は月給いくらという取り決めで働いている。労働時間が減っても月給の額は減らない。つまり、実質的には給料アップってことだ。これまでより働かなくても同じ額のカネがもらえるんだからな。
 一方、下の方の層の場合、時給いくらの契約なんだな。ってことは、35時間しか働かなけりゃ、35時間分の給料しかもらえねえってことよ。


 もひとつ付け加えて言うと、これってサラリーマンや公務員、工場労働者なんかにしかあてはまらない話。自分の裁量で働く自営業者には関係ねえんだよな。
 たとえばフランスには、どの街にもシャルキュトリって店がある。ハムやソーセージといった食肉加工品を中心に、パテやテリーヌ、サラダや煮込みといった総菜なんかを売ってる、日常生活にかかせねえ店だ。こういうところの場合、店の営業時間以外にも、素材の買い付けやら総菜の仕込みやらに時間がかかるよな。しかも、たいていは家族経営、つまりは少人数で仕事をまわしている。番長いっぺん聞いたことあんのよ、週に何時間くらい働いてるんだいって。60時間だとさ。1日に12時間の計算だ。
 あるいはパン屋なんてのもそうだよな。朝7時にはパンを並べてるが、粉をこねてパンを焼いてって時間を考えると、朝は相当早そうだ。しかも、多くは土日も店を開けてる。パン食わないとフランス人は死んじゃうからな。
 こういう仕事は、キツくて労働時間が長い割にはカネも良くないってんで、最近なり手がどんどん減ってるらしい。オイオイ、テリーヌやバゲットのないフランスなんて、ぞっとしねえぜ。


 いや、まいったね。
 働く時間が短けりゃ世の中はバラ色、ってわけでもなさそうだぜ。
 ま、それを差っ引いても日本人は働き過ぎだと思うがな。はー、誰か番長にぽーんと5億円くらいくれないもんかねえ?


 ところでこの35時間労働制、実は2008年7月、中身を骨抜きにする法案が成立している。それまで35時間を超えて働いた分は、次の週なりバカンスシーズンなり、必ずどこかでまとめて休みを取ることとされていた。つまり労働者は、絶対に週35時間分以上は働けない仕組みになっていたんだな。
 この法案は超過勤務分について、企業と労働者とで直接話し合って決められることにした。交渉次第でどのようにでも働けるようになったわけだ。
 ところがいったん根付いてしまった意識はなかなか抜きがたいらしく、多くのフランス人はいまも35時間労働を守っているようだぜ。




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テーマ : フランス ジャンル : 海外情報

11:00  |  俺節フランス  |  トラックバック(0)  |  コメント(16)  |  編集  |  上へ↑

*Comment

■仏系企業東京では・・

Bonjour!番長
>>パン食わないとフランス人は死んじゃうからな。
チョーうけます。

わが社は仏系、上司(社長)は仏人、日本現地法人でも休め休めと言われます。長期有休とれとれ、と。しか~し、日本人のメンタリティとして、長期休暇とって遊びに行っても、もどったときに仕事がたまってることを考えるとぞっとする。そもそも長期休暇とって遊びに行くにも先立つものが要る。たいしていい稼ぎでもないのに。日本人は休んで遊びに行くには大金がないとムリ。お金もなくても楽しめる仏人とは精神的に違うと思います。
長期バカンス10日以上とかは、日本人にはなじめない。
週35時間労働のテーマとはちょっとはずれますが、日本人は働くことが大好きなんですよね。

有休の件を除けば、定時に帰れるし比較的業務量にも余裕があるので、仏系は日系よりいいとは思いますがね☆
bichon |  2010.06.11(金) 13:32 |  URL |  【コメント編集】

ぽーんと5億円ではなく3億円を夢見て、宝くじを買い続けてきましたがいまだ夢果たせず。

でもフランス人でも残業のつかないカードルは結構働きますよ。日本人ほどではないですがね。
それでないと、フランスという大国を維持できないもの。
豊栄のぼる |  2010.06.11(金) 14:28 |  URL |  【コメント編集】

サリュー、番長。
豊栄サンのおっしゃるとおり、カードルはよく働く人が多いですなァ。
週35時間がスタートしたとき、一部の社員を名目だけカードルに引き上げるという方法で乗り切った企業も多いとか。カードルになるとそれほど給料は上がらなくても、年金受給のパーセンテージがぐっと上がるので、そこらへんも年金システムの破綻に一役かっているんじゃないでしょうか。

年金といえば、年取ってから2年3年長く働くより、役に立たない週35時間を廃止して、まだ若いうちに40時間働いてチャラにすりゃいいのにの思いますがねェ。
日向庵猫眠 |  2010.06.11(金) 16:48 |  URL |  【コメント編集】

■そうだったんだ

フランスのパン屋さんはどこに入ってもふわ~~って焼き上がりで本当においしかった。でもよく働くなあって関心していた。朝3時から働いてるんだし。

フランス人は、働く人はものすごく強靱な精神で働くけれど、怠ける人はものすごく怠けるという印象があります。
涼一 |  2010.06.12(土) 00:32 |  URL |  【コメント編集】

残業は規制すべきですよ。
フランスは極端ですが、日本も極端ですよ。

日本人の中には残業を実際より少なく見せることを良いと思ったり、残業が多いことが仕事の熱心さの証明だと勘違いしてる人がいますからね…。
それに集団を第一に考えるせいか、周りは残業中のなかで自分だけ帰宅しますと言える人が非常に少ない。

日本は民間も官庁も、長時間の残業が当たり前のようになってますからね。
日本は労働生産性が低いと言われてますが、当然だと思います。
あ |  2010.06.12(土) 06:08 |  URL |  【コメント編集】

■管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2010.06.12(土) 10:45 |   |  【コメント編集】

日向庵猫眠さん、ホント同感です。

だらだら長く働き続けるより若いうちに週40ないし48時間
働いておいて早くリタイア!!

いいですね。

実は私は働き始めたのが35時間制の始まった時なので
それまでの感じはわからないのですが今は
残業しても「ほーりつでは35時間だよ!!」という感じで
申請できないのであります。
毎日30分はサービス残業の毎日。に本企業の不可解さ。
まあ、全て上司が誰になるかによるのですが・・・。

よーし来週から毎日定時に帰るぞ!
quest76 |  2010.06.13(日) 01:46 |  URL |  【コメント編集】

番長、ヤスでヤス。
どうやらその国民性からサービス残業の温床にはなって無いようでヤスが、労働が苦役てぇのはどうなんでヤスかねえ!?
労働が美徳だナンだと手放しで持ち上げるつもりは無いでヤスが、働かざる者食うべからず的な発想のアッシにゃあ受け入れられ無い発想でヤス。
労働の義務なくして休息・休暇の権利は無い、アッシはそう思って生きて来たでヤス。故に彼等の労働に対する観点には正直抵抗があるでヤス。
それでは番長、これで失礼するでヤス。
ヤス |  2010.06.13(日) 18:20 |  URL |  【コメント編集】

■Re: 仏系企業東京では・・

 bichonさん、押忍! コメを食わないと死んでしまう番長だぜ。日本人ってのは貧乏性なのかもしれねえ。休んでやらなかった仕事ってのはどっかで誰かにツケが回っていくことを考えるよな。自分であることもあれば、他人であることもある。どっちにしてもやらなきゃいけないんだったらいま自分が、なーんて思っちまうもんな。ま、人にいわせりゃアホなのかもしれねえけどよ。あと、フランス人は老後に備えて蓄えようみたいな考えがないからな。そりゃバカンスにすべてを突っ込めるってわけだぜ。だが、総じてやっぱフランス人の方が働きやすい環境にいるってのは間違いないだろうな。あー、うらやましいぜ。
フランス番長 |  2010.06.13(日) 22:31 |  URL |  【コメント編集】

■豊栄のぼるさん、押忍!

 番長も宝くじは買ったが、あたらないねえアレは。小学校5年生だったころにおじいちゃんからもらった宝くじが1万円当たったのが最高額だな。そういやフランスでもLOTOなんてのは大変な人気ぶりで、毎日テレビで当選結果をやってるよなあ。考えることはみな同じってわけか。
フランス番長 |  2010.06.13(日) 22:33 |  URL |  【コメント編集】

■日向庵猫眠さん、押忍!

 カードル、いわゆる管理職、日本でいうところの中間管理職以上の人たちのことだね。確かに連中はよく働いてるな。ただま、そのぶんガツっとまとめてバカンスをとってるイメージだがなあ。もちろんそれだけじゃはみ出る残業分ってのもあるんだろうな。しかし、名ばかり管理職ってのは日本でもあるが、笑えない話だねえ。実際フランスじゃ、カードルになるのを断る人もいるっていうじゃねえか。ま、CPEを巡る騒動を見ても思うが、フランス人の頭にゃ損して得取れみたいな発想ってのはあんまねえようだな。
フランス番長 |  2010.06.13(日) 22:43 |  URL |  【コメント編集】

■Re: そうだったんだ

 涼一さん、押忍! いやおっしゃるとおり、働かない人たちってのは働く人たちのことを、住んでる世界が違うように見ているような感じがするな。そのへん、日本に比べて差が激しいのかもな。というか、低中所得者層でも仕事のモチベーションの高いのが日本ってことか。経営者側からみれば都合のいい民族だろうな!
フランス番長 |  2010.06.13(日) 22:52 |  URL |  【コメント編集】

■あ さん、押忍!

 確かに! いるねえ、減らないねえその、長く働いてるのがエライって考える傾向ってのは。ま、番長はそのへんあんまり気にせず、帰るときは帰っちまうけどな。ていうか番長は学生だけどな。いやー、はっきりいって非効率だぜ日本人の働き方ってのは。しかし、どうやったらフランス人みたいに、みんなが法定労働時間をきっちり守れるようになるのかねえ。民族性みていな話だとすると、こりゃどうにもならねえよな……。
フランス番長 |  2010.06.13(日) 22:55 |  URL |  【コメント編集】

■quest76さん、押忍!

 確かに日本企業は不可解だな。交通法規やなんかはおそらく日本人の方がきっちり守ってる、遵法精神は日本の方がおおむね高いと思うが、なぜ労働基準法をはじめとする法律ってのは守られねえんだろうか。とにかくサービス残業ってのは許しがたいねえ。ホント、上に立つ人間の問題ってのもデカイと思うぜ。はー、番長も定時に帰りてえなあ。おっと、番長は学生だけどな!
フランス番長 |  2010.06.13(日) 23:01 |  URL |  【コメント編集】

■ヤスさん、押忍!

 働かざるもの食うべからず、こいつは古今東西を問わず不変の原理だろうな。労働に対する意識の違いってのはいかんともしがたい部分があるが、フランスにもそう思ってる人間は少なからずいて、だからこそ「もっと働いてもっと稼ごう」のスローガンでおなじみのサルコジが大統領の座についてるんだろうぜ。もし経営者にしか支持されてねえんだとしたら、あれだけの票の広がりはないだろうからな。
フランス番長 |  2010.06.13(日) 23:04 |  URL |  【コメント編集】

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