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2010.02.02 (Tue)

コキュはフランス語じゃなく、ベトナム語でもなかった!か?

 前回の続き。


 番長、まいってんのよ。
 cocue(コキュ)はフランス語じゃなくベトナム語だ!と大見得を切っちまったんだが。
 ベトナム語の辞書にそのcocueって単語が見つからねえってんで、オタオタしてるところだ。


 いや、ちょっと待ってくれ。
 ベトナム語に「cocue」の5文字でひとつながりの単語が存在し得ないということは、番長にも予想できた。
 というのも、ベトナム語はアルファベットの皮こそかぶっちゃいるが、もともとは中国語系の言語だからな。


 たとえば「ベトナム」って単語は漢字で「越南」と書く。この発音をアルファベットで表したものが「Viet Nam」ってことになる。
 つまりは中国語のピンイン、日本語ならローマ字に相当するってとこだな。

 ということは、もしこれがベトナム語だとすれば、「co」と「cue」に分かれると考えるのが自然だ。たぶん。
 そのセンで調べてみたぜ。


 結論から言おう。
 どう調べてもない! 見つからん!


 ただ、こりゃ手に負えんとも思った。
 というのも、coという単語だけで、oの部分につく声調によって16通りに表記が分かれ、それぞれ意味が違うんだな。(参照


 こうなりゃベトナム語に詳しい人に聞くしかないだろう。
 番長、またもや検索したぜ、インターネットの海を。ドンブラコドンブラコと、ベトナム語の専門家を探してイカダの漂流記よ。
 メールアドレスが載せてあった人に、もちろん番長は一面識もないが、失礼も顧みずに質問メールを送りつけちまった。こんな文面でな。



 突然メールいたします無礼を、どうぞご容赦下さい。
 ベトナム語に関して知りたいことがあり、さりとて周囲にベトナム語に詳しい人はおらず、ウェブサイトを検索しましてメールアドレスを知るに至りました。

 お聞きしたいのは、「cocue」(コキュ)という言葉についてです。
 これは、あるアパレルのブランド名です。

 (中略)

 そこで、ベトナム語辞書を調べてみました。
 ところが、「co cue」で該当する言葉は、私の調べ方が悪かったのかもしれませんが、存在しませんでした。
 とは言え、私はベトナム語に関してはずぶの素人でして、ベトナム語の辞書を手に取ること自体が初めて。果たして音を「co」と「cue」で区切って良かったのか、発音記号などをどう調べてよいものなのか、などがよくわからなかったというのも事実です。

 以来、このことが気になって仕方ありません。
 ぶしつけなお願いであることは重々承知致しておりますが、ベトナム語にお詳しい○○××さんに以下の3点についてご意見を伺えればと思い、ずうずうしくもメールをしたためた次第です。

(1) この「cocue」というブランドの語源をご存じでしょうか。

(2) ベトナム語に「cocue」という単語はありますか。

(3) このような質問が成立するのかどうかすらわかりませんが、ベトナム語で「cocue」といった場合、どのような響きで聞こえるものでしょうか。快活なとか、かわいらしいであるとか……。


 お時間がないようでしたら、このメールはそのままお捨て置き下さい。
 もしよろしければ、いつでもかまいません。ベトナム語にそういう単語は存在しない、の一言でも結構です。お返事をいただければ幸甚に存じます。




 いやホント、ぶしつけ極まりないよな。
 ところが、こんな愚連隊のメールに返事をよこしてくれた方が、3人もいらっしゃったのよ。
 人の優しさが身にしみるじゃあねえか。
 以下にその回答を、かいつまんで紹介させてもらうぜ。



●みんなが知ってる有名大学の、ベトナム語を研究している教授



 手短に回答させていただきます。

(1) このブランドの語源については知りません。

(2) ベトナム語にはこのような単語はありません。「co」のスペルの単語はありますが、「cue」の綴りはありません。

(3) いちがいには言えません。




●ベトナム語について非常に詳しいサイトの主催者さん



(1) わかりません。フランス語ではおっしゃる通りだと思いますが……。

(2) 残念ながらないですね。

(3) 「co」(コと発音します)の綴りはベトナム語にあります。声調(6声調あります)によって意味は変わりますが、持っている・Miss・古いなどの意味です。
 「cue」はベトナム語にはありませんが、無理して読めば「クエ」です。
 アパレルのブランド名である「cocue」の語源は、ベトナム語じゃないでしょうね。ふざけて仏語から借用したのではないでしょうか?




●ミクシィのベトナム語コミュニティで、質問トピックに対する回答



(1) 存じません。

(2) ございません。ベトナム語だとすればご推察通り「co」「cue」と区切るしかないのですが、「cue」あるいはこれらに声調記号を加えた単語はベトナム語にはありません。(queはあります)

(3) カタカナ書きすれば「コー・クェ」でしょうが、分かち書きせず1語として表記されていれば西欧語風に「コキュ」あるいは「コクゥ」と読む方がむしろ自然ではないかと思います。音の響きの印象はベトナム人ではない小生には何とも言えませんが、一般的に「キュ」という拗音は可愛らしいのではないでしょうか。




 これではっきりした、と言っていいだろう。
 「co」と「cue」で区切ろうが、そういう言葉はベトナム語には存在しないんだな。
 ベトナムでコキュって言葉をたまたま耳にして付けた、ってセンも薄くなった。

 こりゃ、純粋に音の響きだけでつくった造語なんだろうか。


 でもよ、そいつはちと困るのよ。
 番長、「勝手にフランス語と解釈するオマエはフランス脳だっ!」とか言っちゃったのよ。したり顔で人差し指を突き出しちゃったのよ。メンツを重んじる番長として、フランス語じゃあなかったけどベトナム語でもありませんでしたテヘっでは、もう済まされねえのよ。引き返せねえのよ。ねえ何とかしてよ。


 追い込まれて番長、ハタと思いついた。
 ベトナムって言えば、フランスの植民地だった時期もあるじゃねえか。
 だからあの国は、パンとコーヒーがうまいもんな。
 日本に「日本語英語」があふれているように、ベトナムにも原義を失ったフランス語が存在するなんてことはないだろうか。

 すがるような思いで、返事を下さった方のうち2番目の、ベトナムサイト主催者の方に重ねて質問してみたのよ。
 こんな答えが返ってきたぜ。



 フランス語の単語を借用するケースはあります。例えば「駅」。仏語は「Gare」、これがベトナム語になって「nha ga」(ニャ ガ)。
 しかし……「cocue」はベトナム語にはなっていないようですよ。




 ……そうか。ガッ、クシ。
 番長の面目は丸っつぶれとなることが決定したぜ。
 骨は拾ってくれよな。


 だがしかし、だがしかしだ。
 ここで終わっちゃあ番長の名がすたるってもんよ。

 まずは、できる範囲でコキュというブランドについて調べ直すことにしたぜ。


 前回もちょろっと触れたように、コキュはベトナム雑貨店として、1996年に代官山で産声を上げた。
 そういえばあったよな、ベトナム雑貨ブームというか、ベトナムブーム。猫も杓子もベトナムベトナムってなあ。
 番長がベトナムに行ったのはたまたま1998年だったが、あのころのベトナムは日本人の女子だらけだったよ。

 最盛期はどうも2000年ごろだったようだから、コキュは先駆け的存在だったってことだな。
 きっと経営者のセンスが良かったんだろう。


 実際バカみたいに儲かったようで、このころのコキュは日の出の勢い。売り上げは前年度比で350%増の20億円、なんていう数字を叩きだしている。
 1998年4月にできた2号店の名前は「コキュ・デップ」。その後は破竹の勢いで店舗網を広げ、99年7月の時点で既に11店舗を持つに至っている。「コキュ・アージュ」という店舗もあったようだ。

 で、あんまり売れるもんだから、ブランドを細分化させていたようだ。
 メンズブランドは「コキュ・デップチャイ」。少し大人の女性向けが「コキュ・エム」。コキュ風インドを展開するのが「コキュ・タージ」。


 とまあ、ここまでさらっと書いてきたが、妙な名前がいっぱいでてきたよな。
 順に解析してみようか。

 「コキュ・デップチャイ」(cocue dep trai)。このデップチャイというのは完璧なベトナム語だ。ハンサム・イケメンの意。メンズブランドに冠されるのも合点がいくぜ。
 「デップ」だけだと「美しい」「気持ちよい」「きれい」といった意味になるそうだ。

 それから、「コキュ・エム」(coque em)。このエムもどうやらベトナム語のようで、辞書によれば「妹・弟・年下の子ども・目下の人に対する呼び名, (夫婦・カップルで)女性の呼び名, (飲食・店での)店員への呼び名/隠す/やわらかい, 軽やかな, 静かな, 穏やかな/魔よけをする」だそうだ。まあ、このへんのどっかから取ったんだろう。

 ここまではいい感じにベトナム語だった。
 わからないのが「コキュ・アージュ」(cocue age)と「コキュ・タージ」(cocue taj)。「age」と「taj」に該当するベトナム語は存在しない。

 だが、タージはピンとくるよな。インド風の商品展開だってとこもあわせて、泣く子も黙る世界遺産「タージ・マハル」のタージから取ってるんだろう。ヒンディー語で王冠という意味だそうだ。

 気になるのはアージュの方だ。
 これは番長から見ると、いかにもフランス語っぽい。年齢を表すアージュという単語があるというのもそうだが、コキュとアージュでコキュアージュ、coquillage。貝とか貝殻って意味のコキアージュに、音の響きとしてはすごく似てるんだよな。


 どうだい。
 ワールド社が言葉の響きから付けたと言ってたのが、ようやく実感を伴って理解できてきたような気がするじゃねえか。
 コキュってのが何語かはひとまず置くとして、その後ろにくっついてる言葉はベトナム語だったりヒンドゥー語だったり、あるいはフランス語っぽかったりしてる。

 要するに、なんでもアリの様相なんだな。
 日本では縁日の屋台に、りんごあめや焼きそば、鯛焼きといった昔なじみの面々に加え、チョコバナナにフランクフルト、さらにはチヂミや点心、ドネルケバブあたりが定番化しつつあるようだが、そんな感じって言うかよ。


 さて、コキュ社の昔話に戻ろうか。

 ブームに乗って売り上げを伸ばし、順風満帆に見えた経営だが。
 まさかの急転直下が待っていた。

 2001年1月、約2億8000万円の所得を隠して約9600万円を脱税していたとして東京国税局に告発され、社長は法人ともども起訴。
 同年11月に東京地裁で社長は懲役1年2ヵ月執行猶予3年、法人は罰金2400万円の判決を受けた。

 そして判決の2ヶ月後、2002年1月、ワールド社に買収されるわけだ。

 なるほど、そりゃ店長も店員もワ社には残ってないわけだな。
 驕れる者は久しからず、だねえ。


 ところがこの社長、これであきらめたわけじゃねえ。
 今はまた別のブランドを立ち上げ、表参道に店を構えてるんだな。
 この店の名前、なんていうか知ってるかい。

 聞いて驚くなよ。
 「QUICO」と書いて「キコ」と読むんだ。



s-quico_website.jpg
キコのウェブサイトより)



 コキュからキコへ、だと。
 こいつはコキュへの未練なのか、はたまたこの社長は元来こういう響きの音が好きなのか。


 番長、このキコにも電話して聞いてみたよ。
 マメだねオレも、実際。



番長: ちょっと物を尋ねたいんだが。

キコの店員(以下キコ): はい。

番長: キコってのはどういう意味なのかな。由来や語源があれば教えてほしいんだが。

キコ: あー、ちょっと上の者に聞いてみないとわからないので、お待ちいただけますか。

番長: かまわねえよ。

(暫時あり)

キコ: お待たせしました。あの、ポルトガル語でQからはじまる言葉を探そうってことになって、

番長: (ポルトガル語???)

キコ: これが語感がいいということで決めたそうです。

番長: (やっぱり語感か!) で、ポルトガル語ではどういう意味なのかな?

キコ: それは調べていただくといいんじゃないかと思いますが、なんかスイートコーンって意味らしいですよ。

番長: なるほど、言葉自体に意味はないわけだな。

キコ: そうですね。




 だんだん、ここの社長の発想法が読めるような気がしてくるじゃねえか。

 一応ことわっておくが、キコの店内にポルトガルの商品があふれてるかっていうと、全然そんなことはないんだぜ。
 多国籍というか無国籍な感じの品揃えになっているようだ。


 番長、ポルトガル語の辞書も調べてみたぜ。
 quicoなんて言葉は出てこねえよ。メキシコで人気のテレビドラマの登場人物名くらいしか出てこねえよ。

 ついでにスイートコーンをポルトガル語でどう書くのかも調べてみた。
 スイートはよくわからんかったが、コーン、つまりとうもろこしのことは「milho」(ミルホ)と呼ぶそうだぜ。


 ……なめとんのかコラ!!
 テキトーに名前を付けてやがんな?


 ここで白状するけどよ、コキュについてウェブ上を検索してるときに、おかしな記述を見かけちまったんだよなあ。



コキュ(cocue)はフランス語で「愛する人」を意味しており、「自分のアイテムに愛情を持って欲しい」という願いが込められている




 そんなもんねえよ。
 ものの本によれば、コキュの語源はカッコウ(coucou、クク)から来てるそうだ。
 カッコウのメスってのは他の鳥の巣に卵を置いていって、その鳥に子育てを代わりにやらせる習性があるそうじゃねえか。
 そのへんが転じて、寝取られるって意味になったんだとよ。


 番長、上記の記述はコキュのファンが勝手に解釈したもんだと思ってた。
 実際、往時は芸能人もこぞって身につけたというコキュだからな。そういうミーちゃんハーちゃんがいたって一向におかしくねえ。

 だが、キコがスイートコーンだと言い張る姿勢を見てると、これも店側が言い張ってた話として、あり得なくはないような気がしてくるんだよな。
 つまり、cなり「コ」の音ではじまる響きのいい適当な単語をフランス語の辞書で探していたら、たまたまcocueに行き当たったっていう可能性な。
 かてて加えて、意味を勝手に取り違えていた可能性な。


 結局、明らかになったことは一つだけだったようだな。
 意味を追求するだけムダだったって、ことだ。


 番長の、番長の時間は、労力は……。


 いや、まいったね。
 ここまで長々と付き合って読んできたアンタも、まいったろ。
 オチなんかないからな。


 今回は本気で、号泣!




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10:56  |  フランス語  |  トラックバック(0)  |  コメント(9)  |  編集  |  上へ↑

2010.02.01 (Mon)

コキュはフランス語じゃなかった!か?

 まいったね。
 「cocue」(コキュ)ってブランド名には、まいったね。



s-cocue_website.jpg
コキュのウェブサイトより)



 アンタ、コキュってなんだか知ってるかい?
 例によって例のごとく、番長は全然ご存じなかったのよ。アパレルのブランド名だって言うんだからな。
 番長にとってアパレル四天王と言えば、カンコーに富士ヨット、トンボにスクールタイガーだぜ。知らねえか。みんな学生服のメーカーよ。


 ちょっと前に、シェルっていう代官山のセレクトショップの名前に茶々を入れたことがあったな。
 コキュの存在は、そのときいただいたコメントで知ったのよ。


 これには番長、ちと驚いちまった。
 なんせコキュってのは、フランス語ではとんでもない意味になるのよ。


 この問題に関しては、ウェブ上では相当広く取り上げられてる。ちょっとしたトリビアみたいになってるようだな。
 大阪大学言語文化研究科の春木仁孝教授も苦言を呈されているので、ちと長いが引用しよう。



 キュと言えば、これもかなり有名なブランドに cocue コキュというのがあるようです。靴を中心に女性物を販売するお店のようですが、おしりとは関係はありませんが、これもかなり困った名前です。普通は男性形のcocuがよく使われますが、これはちょっと昔風の言い方だと「妻を寝取られた男」という意味です。今風に言えば、「妻に不倫をされた夫」ということになるでしょうが、ニュアンスとしては「他の男性に妻を奪われた情けない男/馬鹿な男」といったところです。誰かを馬鹿にするときなどに、ののしり言葉としても使われたりします。cocue はその女性形で男性形ほどは使われませんが、「夫を他の女性に奪われた女」という意味になります。いくらおしゃれな靴でも、cocue という文字が入っている靴をフランスで履くのはかなり勇気がいることでしょう。腹いせに値段の高い靴を買って履いているのよ、という意味かもしれませんが。




 な、まいったろ。
 これに比べりゃシェルなんてのはかわいいもんよ。もっとメジャーな意味が別にあったってだけで、cherって単語には「親愛な」って意味もある。

 しかし、コキュに関して言えば、他の意味はない。強いて言えば、教授も書いてるが、寝取られ男というよりはマヌケ野郎、ヒョウロクダマ、といった、単なるののしり言葉としての感じが強まっているくらいだ。
 言ってみりゃ、バカって札をぶら下げて歩いてるようなもんだぜ。


 こんな話を知ってるかい。フランス人は帝国ホテルに泊まりたがらないって。
 「Tu est cocu」ホテル、テュ・エ・コキュ・ホテル、すなわち「オマエはマヌケだ」ホテルと聞こえるからだそうだ。
 それくらいコキュってのは有名な悪口雑言なんだな。

 なんと「コキュ文化」って言葉もある。
 フランスの文学や演劇には、妻を寝取られた夫を描いた作品がたくさんあって、あんまりありすぎるもんだから一つの文化としてカウントされてるんだな。
 それくらいコキュってのはよく知られた言葉でもある。

 そんなことも調べずにノリでコキュと名付けたんだとしたら、それこそとんだコキュ野郎だ。


 しかし、どうもおかしくねえか。


 だってだぜ、フランス語から適当に名前を付けるにしたって、理由ってもんがあるだろうよ。
 日本には変なフランス語の店名やマンション名がいっぱいあるが、どうしてそういう名前を付けようと考えたのかは理解できるもんだ。

 たとえばcherがそうだな。ま、詳しいことは別の記事にこってり書いたんで、ここでは省略させてもらうぜ。
 じゃ、お菓子のシュークリームはどうだ。これ、シューはフランス語だが、クリームは英語なんだな。フランス語では「シュ・ア・ラ・クレム」と呼ぶ。英語では「プロフィトロール」とか「クリームパフ」と呼ぶそうだ。英仏語がごっちゃになっちまった例だ。
 あるいは、参天製薬の「サンテドウ」って目薬、知ってるかい? 昔はテレビCMも流れてたが、これ「目の健康」って意味のフランス語なんだな。ただし、正確にはサンテデズュウってな発音になる。目って意味なら複数形にすべきだからだ。
 発音の問題では、ミルフィーユってのが有名だな。パイ生地とクリームが何層にも重なったお菓子だが、日本風の発音をフランスですると「千人の女の子」という意味になっちまう。ただしく発音すればミルフイユってとこだ。

 どうだい。大したことないだろ。
 この程度の間違い、ご愛嬌ってなもんだ。


 だが、何をどう間違えるとcocueって名前が付くのか、そうなる理由が思い浮かばねえ。
 だいたい、ブランド名に使うくらいだぜ。仏和辞典の1回くらいはひくだろうよ。そしたら即思いとどまるわな。


 ひょっとしたら、わかっていて付けた、いわゆる「確信犯」ってヤツなんだろうか。コキュ文化なんてのを逆手に取った。
 しかし、だとしたら「cocu」って付けると思うんだよな。eは付けない。

 春木先生もおっしゃっているように、cocuは男性形で「妻を寝取られた男」だから、eが付いたcocueは女性形で「夫を寝取られた女」ってことになる。
 これがどうもピンとこねえんだな。コキュってのはやっぱ男に使う言葉だよ。
 フランスでも日本でも、中世以降は長らく男尊女卑の考え方が続いてきた。妻を寝取られるのは一つの事件だが、夫を寝取られるって、そりゃ単なる浮気だからな。妻を寝取られるから文学的にも意味が生まれるんであってさ。


 さらにわからないのが、このコキュってブランドには、まったくフランスっぽさがないことだ。
 もう一度、冒頭で紹介したコキュのウェブサイトを見てもらおうか。



s-cocue_website.jpg



 デルモのチャンネーが着てる服も、ショーウインドーの中の服も、フランスの雰囲気は全然出してねえよな。

 公式ウェブサイトの「BRAND CONCEPT」という欄には、こんな記述があった。



自分自身の価値観を持った人に向けて、"オリエンタル” "エスニック” "フォークロア”をキーワードに、ファッションをモダンに表現するブランド。





 「オリエンタル」ってのは、東洋の、ってことだ。フランスは西洋、オクシデンタル。つまり全くの逆だ。
 エスニック(民族的?)やフォークロア(伝承・風習)って言葉も、フランスの持つイメージからは程遠いじゃねえか。
 実際に売り物のラインアップを見ても、いわゆるアジアンテイストなものや、どこぞの先住民が着てそうな温かみのある感じのものが主流で、フランスっぽさはどこにもないのよ。


 こいつはひょっとして、cocueってフランス語じゃないんじゃねえか?
 そんな視点でウェブを検索してみたところ、こんな記述をみつけた



ちなみにコキュという言葉は、フランス語で「寝取られた夫」と言う意味がありますが、ブランドのコキュはベトナム語からきています。




 なあにい? ベトナム語だあ?


 おいおい、こいつはおだやかじゃねえぞ。
 事の次第をハッキリさせるため、番長さっそく受話器を取った。
 電話先はもちろん、ブランド「コキュ」を手がける株式会社ワールドよ。

 ワールドと言えば、国内のアパレルメーカーでも最大手。
 コキュに限らず、タケオキクチ・インディヴィ・オゾック・アンタイトルなどなど、さすがの番長でも聞いたことくらいはあるブランド多数を傘下に置くゴイスーな会社だ。



番長: すまねえな、ちょいとものを尋ねたいんだが。

ワールド社広報の女性(以下「ワ社」): なんでございましょうか?

番長: あんたんとこのブランドに、コキュってのがあるよな。

ワ社: はい、ございます。

番長: その語源というか、由来について知りたいんだが。

ワ社: は、かしこまりました。少々お待ち下さいませ。

(しばし保留音)

ワ社: 大変お待たせいたしました。

番長: そうでもねえよ。

ワ社: 実は以前にも同様のご質問をいただいたことがあるようなんですが、

番長: (ははーん、番長みたいな物好きが他にもいやがるな。あと、客の質問をデータベース化してやがるな)

ワ社: 音の響きから付けたということです。

番長: 音の響き?

ワ社: はい。

番長: コキュコキュってか。首の骨でも鳴らしてんのか、小気味よくビールでも飲んでるのか。

ワ社: はあ。

番長: それにしたって、何かしらは元になった言葉ってのが何かあるんじゃないのかい。コキュって突然思いつくわけでもなかろうぜ。

ワ社: それが、申し訳ありませんが、そこまで詳しくはわからないんです。コキュというのはもともと代官山にあったセレクトショップなんですが、

番長: (また代官山のセレクトショップかよ)

ワ社: そこを弊社が2001年12月に他社からM&Aで購入いたしました。なので、弊社で名付けをしたわけではないんです。

番長: なるほどね。他社って、なんて会社だい?

ワ社: 少々お待ち下さい。えーと、株式会社コキュですね。

番長: そのまんまだな。当時の店長なり店員なりは、御社の中に残っていないのかね。

ワ社: はい、それが、もう残っていないんです。

番長: 1人も?

ワ社: はい。

番長: そうかい、そりゃわからねえわけだな。そいつは悪かったよ。

ワ社: いえいえ、こちらこそお役に立てず申し訳ございません。

番長: ちょっと確認してえんだが、フランス語が由来ってわけじゃねえのかな?

ワ社: いえ、そういう話は聞いたことがございませんが。

番長: フランス語の「コキュ」には寝取られ女って意味があるんだが。

ワ社: はあ。

番長: うーむ。あるいは、ベトナム語ってことはないかな。

ワ社: あ、それなら可能性はあるかもしれませんね。コキュは以前からベトナムの商品を中心に扱っておりましたから。

番長: ほう。じゃ、コキュにはフランスの商品もあるのかな?

ワ社: それはございませんね。




 音の響き、だとよ。
 もひとつ煮え切らない結果になっちまったが、やっぱりコキュってのはフランス語ではない様子だ。
 ベトナム語源説はむしろ強まってきたな。


 もうちょっと頑張って調べてみたぜ。
 コキュが代官山にショップ1号店をオープンしたのは1996年4月の。このころの様子は、同年7月18日付の日経流通新聞に「ベトナム製雑貨出そろう」という見出しで、こんな記事になっている。



 東京・代官山の「COCUE(コキュ)」はベトナム製雑貨の店。四月に開店した。イグサ素材のバッグやベトナムの民族衣装、アオザイを中心に家具や食器など、シンプルでエスニック色を抑えた生活雑貨が店内に整然と並ぶ。
 商品はすべて日本でデザインし、ベトナムで製造した同店オリジナル。バッグはイグサの手編み中心に約三十種類。マチを大きく取ったバケツ型や買い物かご型が多く、素材のナチュラルさが魅力。
(以下略)




 やっぱりコキュは、ベトナム雑貨の店だった。
 だとしたらやっぱ、ベトナム語から店名を付けるのが自然なんじゃねえか?


 長くなってきたな、ここらで中締めと行こうか。

 もしコキュがベトナム語だったとしたら。
 コキュって言葉は何も悪くない。
 フィンランドのアホ元首相、ナイジェリアのオバサンジョ元大統領を字面でバカにするみたいなもんじゃねえか。

 むしろ、こりゃフランス語だと勝手に解釈し、挙げ句にののしった人間の「フランス脳」の方こそが笑われてしかるべきだぜ。


 ビシッ!
 どうだい、決まっただろう。

 番長もそう思った。
 ところがどっこい、話はこれじゃ終わらなかったんだな。


 こうなりゃ乗りかかった船だってんで、ベトナム語の辞書を調べてみることにしたのよ。

 ところが、ない。
 調べても調べても、ベトナム語の辞書にcocueって単語は載ってねえ!


つづく


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2010.01.26 (Tue)

キャバクラで使えるフランス語

 いつもとはちょっと趣向を変えて! 日常生活の中で使えるフランス語を、特別に番長がお教えするぜ。
 アンタ知らないかい、「巨泉の使える英語」って。そのノリで行こう。

 今回は「キャバクラ編」だ。……今後も続くかどうかはわからんがな。

 以下、実戦のシミュレーションだ。
 キャバクラにて。


-----


 え? 何かおもしろい話してって?
 ずいぶんな無茶ブリだなあ。
 フム(鼻息)。


 こう見えて、ボクはフランスには詳しいんだ。
 実は学生のころ、ちょっとフランス語をかじっててね。
 いやいや、ホントちょっとだけなんだけどさ。


 蝶のことをフランス語で何て言うか知ってる?
 え? よく知ってるねえ。頭いいんだなあ。
 でもね、バタフライは英語だよ。
 フランス語ではpapillon、パピヨンっていうんだよ。
 あなたはアジアのパピヨン、って島谷ひとみが歌ってたじゃない、ね。あれあれ。


 じゃあ、蛾のことはなんていうかわかる?
 ちなみに英語ではモスだよね。モスラだよ。
 え、モスラ知らない? モスラ~ヤッ!モスラ~って。
 フム、まあともかく。
 実は、フランス語では蝶と蛾を区別しないんだ。両方ともパピヨン。


 でも、それじゃわかりにくいよね。
 だから蛾のことは、パピヨン・ドゥ・ニュイ、あるいはパピヨン・ノクテュルヌっていう。
 日本語に訳すと、「夜の蝶」って意味。
 そうだよ、キミのことだよ。
 夜の蝶。きれいに着飾ってはいても、街の明かりに寂しく集う蛾なのさ。


 でも、ボクは、水商売をしてるからってキミのことを見下したりしないよ。
 ボクはフランス人だから。ははは。
 フランス語では蝶も蛾も、どっちもパピヨンなんだからさ。
 自分の仕事に誇りを持ってね。
 ……今度いっしょに、ワイン飲みに行かない? いいとこ知ってるんだ。


-----


 うーん、エロキモイ、というかキモヤラシイ。
 まあなんだな、上司とか同僚との呑みニケーションになら使えるかもしれんな。
 まかりまちがって女性に使ってふられたところで、番長知らんぜ!




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